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綺麗だが小生意気な匡平より、素直で可愛らしい天使系が人気なのは当たり前だ。
匡平のようなキャラクターに好意を持つ読者など、極々少数だろう。
そこで尾上は、「ん?」と前日の会話を思い出した。
「ちょっと待ってください。匡平は準主役の人気キャラだと言ってませんでしたか?」
「ああ、それはヒールって意味でだ。孤高の王子様で天邪鬼な匡平は、これで意外に人気はあるんだ。子守り兼秘書の水下がお坊ちゃんに付き従っているから、アンケートの二位に水下×匡平が入っている」
「つまり甲斐さんは、王道カップルにナオト×万里生。サブに水下×匡平の二段構えで連載を続けた方が良いと?」
「ああ、そうだ。ファンの声は大事にしていかないと、失速するのは目に見えているからな。前回は二位にまで食い込んだんだ。ここでテコ入れは必要だろう」
確かに、編集者としての甲斐の分析は正しいだろう。
ここで変に匡平に肩入れして、読者が離れては意味がない。
読者が匡平を『嫌なヤツ』と受け取ったなら、それを利用してストーリーを考えるべきだ。
「オレがそう指摘したら、平良先生も気にしてた。“そんなつもりはなかった”ってな」
「どういう意味ですか?」
「平良先生としては、天邪鬼な匡平をここから愛されキャラに変えていくような展開にしたかったらしい。でもまぁ、時既に遅しだよ。読者からは『匡平は嫌味なヤツ』だと断定されちまった。ここから挽回っていっても、漫画の構成上無理だろう。そして紙面に載った以上『あれは間違いでした』と、原稿の差し替えは出来ない。読者だってもう納得しない」
単行本にする際に、幾らか修正する事は出来るが。
しかし話を丸ごと“無かったこと”には出来ないのだ。
「それに伴い、ネームも修正変更してくれと編集者としてお願いしているところな訳だ」
「……どうして甲斐さんは、漫画の構成上匡平の変化を描くのは無理だと判断したんですか?」
「だって、『シザービラ』は後6回で完結予定なんだぜ? なんで脇キャラの為に紙面を割かなきゃならねーんだ」
成程、確かに連載回数が決まっているのでは厳しいだろう。
自分によく似たキャラクターの匡平が読者から嫌われたまま終わってしまうのは残念ではあるが、だからといって、どうにかしろとはとても言えない。
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