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しかし、平良は何を考えてこんなキャラクターを描いたのか。
もしや、ツンツンしている匡平にかつての尾上を重ね、ハッピーエンディングを用意するつもりであったのだろうか?
一瞬そう考え、尾上はすぐにそれを否定した。
(馬鹿らしい。匡平がオレに似ているって思うこと自体が、ただの自惚れだ)
平良はグダグダと謝罪の言葉を口にしていたが、あれだって偶然、尾上と再会したことにバツが悪くて取った行動だろう。
漫画の登場人物に自分が似ているだなんて、そんな妄想をするだけ阿保らしいと考え直し、尾上はパタンと紙面を閉じた。
そうして、改めて甲斐に向き直る。
「――あと6回で完結予定という事ですが、それは決定事項なんですか?」
「今のところはな」
「つまり?」
「昨日言った通り、アンケートの順位結果によって変動アリ、だ。現在『シザービラ』は2~5位の間をウロウロしている。先月号では2位だった。ここで二回以上1位を取ったら、連載延長も在り得るという事だ」
なるほど。
そういう事なら、甲斐が躍起になるのも当たり前というものだ。
編集者なら誰だって、担当する漫画家の連載が長く続くことを願っているだろう。
それ故、乗り気のしないファッション特集や、気に入らない新人とだって協力せざるを得ない。
甲斐の事情を慮り、尾上は納得した。
(甲斐さんは、オレのような愛想の無いヤツは嫌いなんだろうな。でも、担当する漫画家と仕事の為に、不承不承タッグを組んでいるという現状か)
ツンケンして愛想が無くて、皆から敬遠される嫌われ者。
平良の漫画を最初から知っているわけではないので、この『匡平』なる人物がどういう経緯で主人公のナオトにこんなウザい絡み方をしているのか分からぬが。
とにかく、この主人公に絡んでいるシーンは、かつての自分を思い起こさせるので不愉快極まりない。
夕立の激しい夏の日のあの出来事は、尾上にとっては最悪の黒歴史だ。
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