130人が本棚に入れています
本棚に追加
5
「右近先生、左文字先生! いつまでも仲違いしている場合じゃないんですよ! 次号では平良先生の『シザービラ』が優勢になるだろうって分析も出ているんです! ここで濃厚な濡れ場を投入して、票を獲得しないとっ!」
と、力説する中河の声に頷いたのは左文字悠斗だけだった。
作画を担当する悠斗は長く漫画を描いていることもあり、そこら辺の事情もよく知っている。
アンケートで結果が振るわない漫画は打ち切りコースまっしぐらだし、いつまでも焦らしだけでは、ファンだって他所に目移りしてしまうだろう。
なので、悠斗は中河の意見に同調しながら、右近涼真に向き直った。
「な、編集もそう言ってるんだ。いい加減に、テツヤとマサルの仲を進展させようぜ。ここまでキスだけで繋いでいるんだ、そろそろ次の段階に移るべきだって」
「それが、君の言う『仲直りセックス』というワケか」
涼真はフンと鼻を鳴らすと、不愉快そうに眉間に皺を寄せた。
「そんなお手軽な関係じゃないだろう、彼らは」
「いや、原作担当のお前の言う事も分かるが……せっかくここまで首位をキープしているんだから、盤石なものにしたいんだよ、こっちは」
「何を言う。アンケートなど別に首位じゃなくても構わないだろう、くだらん事を言うな」
確かに、下位ではないのだから打ち切りの心配をするのはまだ杞憂ではあるが。
しかし、せっかく首位を独走していた身としては、ここで順位を落とすことには抵抗がある。
漫画家として、そこは譲りたくない。
だから悠斗は、涼真に詰め寄った。
「お前の意見はそうかもしれないが、訊ねたいのはマサルの気持ちだ」
勝とは、二人が合作している『彼らの東京物語』の登場人物だ。
そのキャラクターの名前を出し、悠斗は続ける。
「テツヤを、このままいつまでも孤独にしていていいのか? マサルは、都会人で孤独なテツヤを愛してるんじゃなかったのか?」
最初のコメントを投稿しよう!