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 通常ならば、①原作者の案を元にして、②漫画家が作画を担当しネームを作り、③それを編集者がチェックして細かい修正に入るという工程を踏むのだが。  この二人の作家に関しては、まるで違っていた。  原作を担当する右近涼真という作家は、自分の作り出すキャラクターと完全に同化して物語の世界観を“そこにあるもののように”作り出し、それを紙面に書き上げるという憑依型の作家だった。  彼とタッグを組む作画担当の左文字悠斗は“実力もあって絵を描く才能は抜群だけど肝心の話が面白くない”という、漫画家としては致命的な欠点を抱えた漫画家だった。  この二人が出会ったきっかけは、文夏社の女帝、安藤マリサ社長が直々にヘッドハンティングしたからである。  そして安藤マリサは、面識のなかった右近と左文字の二人でタッグを組ませ、BL専門の月刊誌『Quartz』創刊号で新連載をスタートさせよと命じた訳だ。  当然、この灰汁(あく)の強い二人が最初からトントン拍子に協力して上手く行くわけがなく。  最初は編集も交えて、喧々囂々と、話を書く描かないと二転三転したのだが、あるを用いて、見事『彼らの東京物語』は紙面に載る事になった。  そうして、左右コンビの描く『彼らの東京物語』は、創刊号から連続してアンケート一位をキープしている状態なわけだが。  前記の通り、というのが、非常に独特すぎるものだった。 「テツヤのバカ! こんなに言ってるのに、どうして分かってくれないんだよ!」  涼真は“マサル”に成りきり、目に涙を溜めて悠斗を睨んだ。  そうして、噛みつくように糾弾する。 「僕は東京の事なんて全然知らないのに、やれ渋谷がどうしたとか新宿がどーとか言ってさ! 僕にしたら何が違うのか全然わかんないのにさ! バカにしたみたいにいっつも下に見て……ってんだよ!」  ナチュラルに発した方言に、今完全に涼真は『マサル』とシンクロしていると分かる。  対する悠斗の方は、どうにかしてそれに付いて行こうと四苦八苦している様子だ。 「だ、だから、こっちはマサルと仲直りしたいって言ってるんだよっ」
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