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 岸の弱音に、中河が「大丈夫ですよ!」と応えた。 「右近先生はあの通りになりませんが、左文字先生の方はこちらの意図を汲んでくれそうじゃないですか。原作者と揉めるのは避けたいですが、今回は左文字先生も合作の形になっているワケだし、ここでストーリー展開に少々強引にラブシーンを入れても後々禍根を生むことはないと思います。なので、この際、作画担当の左文字先生の采配で、こちらの要望を盛り込んだストーリーで進めても平気でしょう!」  中河の太鼓判に、だが、岸は難色を示す。  だって、そうだろう。  この中河、今年の春に採用されたばかりのド新人にしか過ぎないのだから。 「……お前の『大丈夫』ほど、信用できないものは無いんだが」 「え~‼ それって酷くないですか!?」  プンプンと頬を膨らませる中河に、岸は換言を口にしようとするが。  その中河は、打ち合わせ室を通りかかった人物を目に留め、岸が発言するより早く口を開いた。 「あ、甲斐さん!」 「っ!?……なんだ、中河か」 「そっちの先生はどんな塩梅ですか? あと、オノとも上手くやってますか~?」  このストレートな質問に、甲斐はポーカーフェイスをする余裕もなく苦々しい表情になった。  あの後、尾上に宣言した通り、さっそく平良へ電話を掛けて『シザービラ』の主人公ナオト×万里生のカップリングを猛プッシュしたのだが、どうにも平良は素直に「イエス」と言ってくれず、これはもう直接説得しに八王子まで行くかと思っていた矢先である。 (こっちはネームにダメ出しするかどうかの判断をする瀬戸際だってのに、この野郎は能天気なツラしやがって!)  極力、担当する漫画家とは円満な関係を保っていたいのが編集者としての本音だ。  だが、ここに来て平良との関係がギクシャクしている事に、甲斐は焦りを抱いていた。 「うるせぇ! お前には関係ない!」 「……大丈夫か? 甲斐」 「あ、岸班長もいたんですか……」  乱暴な物言いをしたことにハッとして、甲斐はバツが悪そうな顔になった。
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