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中河は誰もが認める天然であるが、時として、思いも寄らぬほど鋭い事を言う男だった。
戸惑った顔をする甲斐を見遣り、岸は嘆息する。
「もしかして、甲斐も中河の指摘に、何か心当たりがあるのか?」
「い、いえ。そんな訳じゃないっすが……」
甲斐は言いよどむも、やはり気になるのか続けた。
「……ただ、O,Nっていうデザイナーの件で、ちょっと平良先生と揉めてて」
「『O,N』?」
「あ、もう存在しないマイナーデザイナーらしいですが」
「ふん……」
腕を組んで考え込む岸であるが、ファッションにそこまで明るくないのは岸も同じだ。
困惑しながら、「そのデザイナーの件で、何で平良先生と揉めるんだ?」と至極尤もな疑問を口にする。
「ハイブランドなら、三か所から正式に許可が出ている。今回はすでに許可が取れているところで特集を組めばいい。存在しないブランドとは連絡のしようがないんだからな」
「オレも、オノも同じ考えです。ただ、『シザービラ』キャラクターの匡平はO,Nで進めたいと、どうしても平良先生が譲ってくれなくて手を焼いてるんですよ」
「ほぉ」
甲斐の説明に、岸は興味を持ったようだ。
手にしていた原稿をデスクへ戻し、改めて甲斐を見る。
「匡平というと……ちょっと嫌味っぽい美少年キャラだったよな」
「ですね。王子様系だって、人気はありますよ」
「平良先生から次のネームは上がっているのか?」
岸の問いに、甲斐は「ちょっと、いくら班長でもそれは――」と口を濁す。
一応岸は、甲斐にとっては上司であるが、互いに違う作家の担当編集というライバルでもあるのだ。
手の内を晒して、洗いざらいぶちまけるのは避けたいところだ。
すると、援護射撃をするように、中河が口を開いた。
「オレたちは『Quartz』を一緒に作る仲間じゃないですか。不安材料は協力して潰して行きましょうよ~」
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