132人が本棚に入れています
本棚に追加
能天気な中河の発言であるが、甲斐は少し行き詰っていた事もあって、ついつい「実はな……」と白状してしまった。
そうして、甲斐の口から聞いた内容に、岸も中河も首を傾げる。
「なんで平良先生は、そこまでO,Nにこだわるんだ?」
「ええと、オレが考えた理由は『推し活』なんですよね」
「推し活?」
「ええ。平良先生は元々O,Nのファンで、だから今回の企画を逆手にとってO,Nを全面的にプッシュする気なんじゃないかと」
「でも、ファッションに詳しい尾上は、そんなデザイナーはもういないとハッキリ言ったんだろう?」
「はい……」
そこで、甲斐はふと違和感に気付いた。
『亡くなってはいない』
そうだった。
尾上はO,Nというデザイナーはもうこの世にいないと断言したのに、平良はそれを強く否定したのだ。
何故平良は、そう断言できたんだろうか?
物思いに沈みそうになる甲斐の前で、中河はぽつりと口を開く。
「えーと、匡平ってこのキャラクターですよね」
先月号の『Quartz』を捲り、中河はキャラクターを指差して確認する。
『シザービラ』の匡平は、王子様のような気品を備えた、少し生意気そうな顔の少年だった。
しばしの沈黙の後、岸が口を開く。
「――このキャラクター、なんだか尾上に似てないか?」
「あ、そういえば! ちょっとだけ眦が上あがり気味なのが雰囲気ありますね」
岸と中河の指摘に、甲斐はハッとなって雑誌を見る。
言われてみれば確かに、『シザービラ』の匡平は尾上の面影を宿していた。
何で今まで気付かなかったのかと思う甲斐であるが、それがO,Nとどう関係するというのか?
疑問に思う三人の背後から、その時、突如声が上がった。
「ベースが黒でマチョー刺繍といえば、O,Nという若いデザイナーの名前が挙がった時期も確かにあったのよ」
最初のコメントを投稿しよう!