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 能天気な中河の発言であるが、甲斐は少し行き詰っていた事もあって、ついつい「実はな……」と白状してしまった。  そうして、甲斐の口から聞いた内容に、岸も中河も首を傾げる。 「なんで平良先生は、そこまでO,Nにこだわるんだ?」 「ええと、オレが考えた理由は『推し活』なんですよね」 「推し活?」 「ええ。平良先生は元々O,Nのファンで、だから今回の企画を逆手にとってO,Nを全面的にプッシュする気なんじゃないかと」 「でも、ファッションに詳しい尾上は、そんなデザイナーはもういないとハッキリ言ったんだろう?」 「はい……」  そこで、甲斐はふと違和感に気付いた。 『』  そうだった。  尾上はO,Nというデザイナーはもうこの世にいないと断言したのに、平良はそれを強く否定したのだ。  何故平良は、そう断言できたんだろうか?  物思いに沈みそうになる甲斐の前で、中河はぽつりと口を開く。 「えーと、匡平ってこのキャラクターですよね」  先月号の『Quartz』を捲り、中河はキャラクターを指差して確認する。 『シザービラ』の匡平は、王子様のような気品を備えた、少し生意気そうな顔の少年だった。  しばしの沈黙の後、岸が口を開く。 「――このキャラクター、なんだか尾上に似てないか?」 「あ、そういえば! ちょっとだけ眦が上あがり気味なのが雰囲気ありますね」  岸と中河の指摘に、甲斐はハッとなって雑誌を見る。  言われてみれば確かに、『シザービラ』の匡平は尾上の面影を宿していた。  何で今まで気付かなかったのかと思う甲斐であるが、それがO,Nとどう関係するというのか?  疑問に思う三人の背後から、その時、突如声が上がった。 「ベースが黒でマチョー刺繍といえば、O,Nという若いデザイナーの名前が挙がった時期も確かにあったのよ」
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