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中河の抗議に、マリサは平然と応えた。
「本人がいない所で、こそこそ喋るなんてあたしのポリシーに反するのよね。でも、あんた達も結構行き詰っていたようだし、あたしも口を滑らせてしまったし。だから今回は特別に教えることにしたのよ。感謝しなさい」
男達は、何故ここでマリサに感謝しなければならないんだと思うが、それを口にするのは怖いので揃って無言になった。
しかし、その空気を感じたらしいマリサはくすっと笑う。
彼女に言わせれば、尾上の経歴を知りたかったら直接本人に訊くか、それともファッション部を訪ねて江藤編集長に訊けばいいだけの話だ。
江藤編集長は学生コンクールの主査を務めたことがあったから、尾上がO,Nだという事は既に分かっている。
訊ねれば、彼らは正直に答えただろう。
「……でも、そうね。尾上は自分がO,Nだった事は、もしかしたらあなた達には言いたくなかったのかもしれないわね。だから、リリ・タケの名前も口にしなかったのかも」
「それは、どうしてですか? 社長は何処まで知っているんです?」
「あたしが知っているのは、尾上の履歴書と、リリ・タケがO,Nのデザインを継承したくらいよ。彼らの間になにかしらの取引があったのかも――」
実はマリサはもう一つの事実を知っているのだが、それは彼女のポリシーに反するので口にしなかった。
代わりに口にしたのは、来月号の『Quartz』の件である。
「巻頭の『シザービラ』登場人物ファッション特集記事をこのままハイブランドで統一するか、消えたO,Nを引っ張り出すかリリ・タケを交えるか。その判断は守谷編集長と相談して二日以内に決定しなさい」
確かに、そろそろ決めなければ余裕がなくなって来る時期に差し掛かっている。
了解しましたと相槌を打つ岸であるが、甲斐は疑念を抱く。
マリサは気になる事を言っていた。
(O,Nがこだわった刺繍を、リリ・タケはプリントに替えた……か)
そして、肝心の事をマリサは言っていない。
『シザービラ』に登場する匡平は尾上に似ているし、匡平は尾上のデザインした服を着ている設定だ。
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