君の声が透明になった。

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「来年の夏は、絶対に2人で」  約束。  2人の声が、重なる。 「今年は、この波音だけで許して」  なんで、謝るの?  そんな君の言葉が聞こえてきたような気がした。 「これくらいのことしかできなくて、ごめんって意味」  せめて、今日という日を記念としてかたちに写真を撮って帰ろう。  そんな発想が浮かんだけど、俺はレンズを海に向けることを躊躇った。 「あ、写真……どうしようかなって……」  こんなにも閑散とした海を、思い出として残してもいいのかな。  せっかく君に届けるなら、楽しい思い出を。  そんな想いがあった。 「写真も……」  2人で撮りたい。  なんでもかんでも2人に囚われすぎだって笑われそうだけど、君に希望を届けたい。  君が生きたいと、心の底から願えるような希望を送りたい。 「ありがとう」  君の声が、波の激しさを穏やかなものへと変えた。  君の声が、鮮明に鼓膜へと届けられる。
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