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どうしよう。
勢いで飛び出しちゃったけど、どこに行くかなんて考えてなかった。
花鈴がいるであろう生き物小屋に行ってみるのもいいかもしれないけど、きっと邪魔になっちゃう。
教室に帰っても一人じゃ多分怖いだけ。
瀬川さんたちがいつものように校庭でボール遊びをしているのが、わたしが今いる玄関ホールから見える。
まだまだお昼休みは残ってるのに、わたしどうすればいいんだろう。
また保健室に戻るのは、ちょっと気が引けるし……。
あ、でも急いで出てきちゃったから筆箱、保健室に置きっぱなしだ。
行くしかない、よね。
もしかしたらまだ日向さんがいるかもしれないけど、五時間目の授業に支障が出るよりかはマシだろう。
腹をくくって、さっき走ってきた廊下を歩き始めた途端、正面の曲がり角から彼女(?)が現れた。
手にはシンプルなグレーの筆箱を抱えている。
チャックのところには前に花鈴がくれた小さなネコのキャラクターストラップ。
どこからどう見たってわたしの。
「あ、いたいた。いきなり逃げたからびっくりしたよ。これ、来海ちゃんのだよね?」
日向さんは廊下の先にわたしがいるのに気付くと、先生にギリギリ怒られないくらいの早歩きでこっちに来ようとする。
こういうとき、普通なら「ありがとう」って笑って受け取るのだろう。
でも、わたしにはそんなことできない。
日向さんには悪いけど、わたし、日向さんが怖いんだ。
他の男の子と同じくらい。
目から涙が溢れそうになる。
「あ、来海! こんなところでなにしてるの?」
校庭の方から花鈴がわたしに気付いたのかかけよってきた。
「それ、来海のだよね? なんで日向が持ってるの?」
花鈴は日向さんが持ってるわたしの筆箱をにらむ。
「実はぼく、さっき転んじゃって。そしたら保健室に来海ちゃんがいてね。でもぼくのこと見て逃げちゃった。それで筆箱忘れてたからぼくらが同じクラスだって知った保健の先生に頼まれたんだ」
内容は正直に言うとほとんど頭に入ってこなかった。
日向さんが自分のことを「ぼく」って言ったから。
ぼくって、男の子しか言わないよね。
女の子なら、普通「わたし」って言ったり自分の下の名前だったりするもん。
なんとなく考えてはいたけど、もしかして日向さんって男の子?
「日向ってまさか男子?」
花鈴も疑問に思ったらしい。
目線を筆箱から日向さんの顔に移して、さらに強く睨みつけた。
「うん。ぼくは男だよ。知らなかった?」
彼はいつも通りの可愛らしい無邪気な笑顔でわたしたちを見る。
だけど、その表情がわたしにはやけに怖く思えたんだ。
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