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1・転校生は完璧美少女(?)
うるさく鳴いている蝉の声の中、わたしは小さく深呼吸をして、下駄箱の扉を開いた。
よし、大丈夫。
上履きに履き替えてすぐに教室までの道へと歩を進めていく。
「来海おはよっ! 今日も暑いね〜」
明るい声に話かけられて思わず驚いてしまうが、大丈夫。
振り返るとやっぱり花鈴だ。
「おはよう。もう九月なのにね」
彼女は私のたった一人の友達。
保育園からずっと一緒で、もう八年くらいの付き合いになるんじゃないだろうか。
花鈴のトレードマークである元気印のツインテールは歩くたびに小さく揺れている。
「ね〜。それよりさ、これは噂なんだけど転校生が来るんだって」
転校生かぁ。女の子だったらいいなぁ。
「そうなんだ」
「あれ、来海は興味ない?まあ、そうだよね。でも、可愛い子っぽいよ! さっき全然見たことない子が結代先生と一緒に歩いてたんだけど、すっごく可愛かったの! 多分その子だよ!」
あんまり興味はないけれど、女の子ならよかったよ。
楽しそうに話す花鈴の話を聞いていると、あっという間に教室に着いた。
いつもと何一つ変わらない景色だけど、今日から一人増えるんだよね。
自分の席に着いてランドセルを下ろす。
もうかなりくたびれてきちゃったなぁ。
前の席替えで花鈴とはかなり席が離れてしまったけど、彼女はいつも私のところまで来て楽しそうに話してくれる。
私はあんまり話上手じゃないから、ほとんど聞いてるだけだけど、花鈴がいてくれるおかげで毎日とても楽しいよ。
そんなことを考えていたらチャイムが鳴ってしまった。
いつもはかなり早くやって来る結代先生がまだ来ていないのが、転校生が来るって噂の真実味を増している。
「おはようみんな」
噂をすれば、だ。
爽やかな短髪に動きやすそうな黒ジャージ。
先生が教室に入ってきた瞬間、「先生、遅い」とみんなが口々にブーイング。
「ごめんな。それよりみんな大ニュースだぞ。このクラスにメンバーが増えるんだ」
途端に教室が騒がしくなった。
私も多分、花鈴の話を聞いていなければかなり驚いていたと思う。
「もう入って来ていいぞ〜」
先生がそう言うと、そっと優しく教室のドアが開いた。
教室内のざわめきがさらに大きくなる。
現れたのは花鈴の噂通りの可愛い子。
いや、超可愛い子だ。雑誌とかテレビとかに出ていてもおかしくないくらいの整った顔立ちに、ふわふわした髪。
服も、胸元にリボンの付いたブラウスに、夏らしい水色のスカートはまるで童話から飛び出して来たヒロインみたいだ。
「初めまして。日向朝陽っていいます。好きな食べ物は甘いもので、可愛いものが好き。よろしくね!」
ちっとも緊張していなさそうな朗らかな声。
頭の先からつま先まで、好きなものたちですら完璧美少女な彼女だけど、なぜかわたしの首筋にはゾクリと鳥肌が立っていた。
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