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思った通り、日向さんはすぐにみんなの輪の中心人物になっていた。
しかし可愛らしい外見だけじゃなく、男女問わず仲良くできるような気さくさと、困っている人にはすぐ手を差し伸べられる優しさを持ち合わせている彼女が人気者になるのは当然のことだろう。
でもやっぱりわたしはずっとモヤモヤしっぱなしだ。
彼女が近くにいると、心配がバクバクするし、普段はかかないような冷や汗もかいてしまう。
「花鈴、ねえどう思う?」
事情を説明して、意見を求めると花鈴は小さな笑顔を向けた。
「そんなの本人に聞くのが一番じゃない?なんなら今あたしが日向に聞いて来てあげよっか?」
そう言う花鈴の目にはキラキラと好奇心が輝いている。
「うん、お願いしていい?」
「もちろん!」
花鈴は元気に答えて人に囲まれている日向さんの元へと走っていった。
日向さん、今日も楽しそうだなぁ。
「なんだ。夜咲も転校生が気になってんのかよ」
ガサガサとした声に肩が飛び跳ねる。
クラスで一番賑やかな瀬川さんだ。
普段はあんまり絡んで来ないのに、どうして花鈴がいないタイミングに……。
申し訳ないけど彼のことは特に苦手なのだ。
彼が近づいて、話しかけて来た時から背中はゾクゾクしっぱなしだし、手は震えっぱなし。
ぎゅっと汗だらけの手を握りしめて、泣き出しそうになるのを堪える。
「あ! 瀬川何してんの!?」
自分の席で一人怯えていると突然花鈴の怒号が飛んできた。
「藤田には関係ないだろ!」
「関係しかないわよ! あんたちゃんと分かってんの? 来海がこんなことになっちゃった理由」
「そんなこと知らねぇよ〜だ」
「はぁ?」
何もできないわたしを他所に二人はどんどんヒートアップしていく。
周りを見る余裕はないけど多分クラスのみんなは、わたしたちのことを見てるだろう。
コソコソと何かを話す声が聞こえるもん。
やだ。やめて。
心臓がキュッと縮こまっていくのを感じる。
「二人ともやめなよ」
山に流れる川みたいに澄み切った朗らかな声が、二人の罵声を切り裂いた。
この間、自己紹介した時よりも少しトゲがあるけど、紛れもなく日向さんの声だろう。
二人の喧嘩を止めてくれたのはありがたいけど、できれば先生とかに来てほしかったかも。
「はぁ? 日向には関係ないだろ?」
「そうかもね。でも花鈴ちゃんも伊月くんも、来海ちゃんのことで喧嘩してるんでしょ? 来海ちゃん、嫌そうだよ」
瀬川さんに引き続いて、日向さんの参戦にわたしの心臓はもうどっくんどっくんだ。
「本当だ。来海ごめんね。日向もありがと」
花鈴がそっと近づいてぎゅっと抱きしめてくれる。
あったかい。
毛布にくるまれたみたいな安心感だ。
「なんでオレのこと睨むんだよ!?」
抗議の声を上げる瀬川さんを花鈴は完全に無視して、優しく「大丈夫だよ」とささやき続けてくれる。
瀬川さんに対する申し訳なさとか、自分の弱さとか、色々なことを感じたせいで、花鈴のぬくもりをもってしても、わたしの胸のモヤモヤは残りっぱなしだった。
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