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2人はコンビニに入りコーヒーを買って、駅前にある小さな公園に入った。辺りは暗く、ベンチのそばに照明が立っている。
「ベンチに座ろう…」
桐原はそう言ってベンチの上を手で払い杏子を座らせ、その隣に腰を下ろした。2人は真っ直ぐ前を向いて、真っ暗な公園を眺めながら買って来たコーヒーを飲む。
しばらくコーヒーを飲んで落ち着き、やがて桐原が話を切り出した。
「あのさ…杏子…」
「うん、何?」
「少し前から言おうと思っていたんだけど…」
深刻そうに話す桐原に杏子は不安になり、ゆっくり桐原に視線を向けた。すると桐原も視線を杏子に向け、真剣な表情で杏子を見つめ返し続けて言った。
「碧に彼女が出来た。相手は前に買い物に行った時、2人の女性と男性1人の3人に会った中の片方の女性で、名前は向井 恋さん」
「えっ……」
筑間に彼女が出来たという話に、ただ単純に友人として驚いていた。何度も顔を合わせているが、彼女が出来たと筑間本人から聞いていなかったからだ。ただそれだけなのだが「へぇ」と流す事も出来なければ「嘘!」と泣ける訳もなく、杏子はどう反応していいか分からず黙り込んだ。
すると桐原は杏子を慰めるように優しく話す。
「ずっと話そうと思っていたんだ。前に碧と2人で合コンに行っただろ?」
「うん…」
「そこに彼女がいて、碧から夜に店へ来るように誘って告白したんだ」
「あ、前に碧くんが飛び出して行って連れて戻って来た子?」
「そう。碧も俺も、彼女の事は合コンで会う前から知っていたんだ」
「えっ…」
「4月に店の近くに就職したのか、友人とランチに店へ来てたんだ。碧は一度店頭を覗いたらしくその時、彼女を見て一目惚れしたんだ。だから合コンで会った時、彼女しか見てなかった」
「碧くんが……一目惚れ…」
杏子には信じがたい話だった。あのぶっきらぼうで乱暴そうな筑間が、恋愛など興味なさそうに見えていたからだ。「めんどくせぇ」と言った筑間の顔を思い出し、自然に声が漏れた。
「へぇ……」
「ずっと話せなくてごめん。でも碧は彼女に夢中で、彼女以外眼中にない。彼女が大切で本気で彼女の事を想っているんだ。あんな碧、初めてなんだ」
説得するような口調で言う桐原。杏子は答える事が出来ずにいると、桐原は少し考えた後、告げる。
「アイツはお前の事、眼中にない。そんな恋もう諦めろ」
そう言われた瞬間。
『眼中にない相手に恋をしてもムダ』
そう言われているようで、杏子の桐原に対する想いも否定された気持ちになりショックを受けた。
(皐に友人としか見られていない私が、もし好きって言ってもムダって事? 諦めた方がいいって? そういう事?)
そう思うと杏子の目に涙が滲み、杏子は涙を浮かべたまま桐原に訊く。
「恋愛対象で見てもらえない相手を好きになっても、ムダっていうの?」
「……そう…だな…」
低い声で桐原は答える。杏子は立ち上がって涙を零しながら、自分の考えを訴える。
「好きになるのは私の勝手でしょ! 私の気持ちだもん! 片想いしたっていいじゃん!」
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