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「でも好きになっても気持ちを伝えねぇだろ! 杏子は告白しない! 碧はお前に眼中にない! それのどこに未来があんだよ!」
杏子をニラミつけるように鋭い目つきで桐原が見上げる。ポロポロと涙を零し、杏子は桐原を見つめる。
「もし今、告白しても、碧には同じ気持ちを返してもらえないんだ。そんなの悲しいだけじゃねぇか……諦めるしかねぇだろ…」
悲しそうな目で言う桐原。
「諦めて前に進めよ……じゃなきゃ…俺も…」
そう言って下を向く桐原に、杏子は泣きながら言う。
「でも……それでも……私は…好きだもん……」
杏子に桐原を諦める選択などなかった。いくら眼中になくても、告白出来ないままでもそれでもいいと思っていた。その決心の言葉だった。
「じゃあ、勝手にしろよ! ! 俺はもう、碧の話は聞かねぇからな! 泣きたきゃ泣け!」
桐原はそう怒鳴って立ち上がり、鞄から財布を出し一万円を差し出し言った。
「泣いてるお前見るの嫌だから、先に帰る。これでタクシー呼べ」
杏子がうつむいたまま首を横に振ると、桐原はベンチにバンッと一万円を置いて、杏子が飲んでいたコーヒーで留めた。
「じゃあな…」
桐原は杏子に背を向けて、振り返りもせず先に帰って行った。残された杏子はしばらくその場にうずくまり泣いていた。
杏子の気持ちを全否定した桐原。偽りの気持ちではあるが、桐原に見せていた筑間への気持ちも、相手に打ち明けない片想いの気持ちも、秘かな恋心も桐原からすれば、同じ気持ちが返ってこない恋は無意味だと言いたいのだろう。
(そんなの皆してるじゃん。片想いして告白したりされたりして、付き合ったり振られたり……皐は好きな人…いないからそんな風に思うんだ…)
散々泣いた後、ベンチに座って携帯を出し筑間に電話をかけた。
《あぁん?》
面倒くさそうに電話に出る筑間。
「相変わらず面倒くさそうだなぁ…」
《あぁ、実際そうだろ?》
「はぁっ……」
大きなため息をつくと、筑間が訊いた。
《どうしたんだよ…》
(根は優しい奴なんだよね……)
杏子は筑間に桐原の事を相談する。喧嘩をした事は話さず、こう言った。
「もうそろそろ皐に本当の事、話さなきゃダメかなって思って…」
《まぁな……いつまでもこのままじゃ俺も困るし》
「だよね。じゃ金曜日の夜、ちょっと相談に乗ってくれる?」
《分かったよ。じゃ金曜日の夜は少し早めに店を閉めてアイツら帰らせるから、5時半過ぎに店に来いよ》
「分かった…」
電話を切った後、タクシーを呼び家に帰った。桐原からもらった一万円はそのまま取って置き、返すつもりでいた。
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