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そして筑間と約束の金曜日の夜。5時で仕事を終え、そのまま『ビストロ キッチン』へ向かう。5時半を過ぎて店に入ると、桐原や他のスタッフは先に帰り、筑間が待っていた。
筑間がコーヒーを出してくれて、カウンター席でコーヒーを飲みながら杏子は本当の事を話す。桐原から筑間に彼女が出来た事や諦めろと言われた話を詳しく話し、大喧嘩した事を話した。
「あぁ……最悪だな…」
筑間はそう言って立ち上がる。
桐原の事をよく知っている筑間のその言葉が、杏子には深刻なものに聞こえ、杏子は焦って立ち上がり筑間に掴みかかった。
「どうしよう! 碧くん! 私、どうしたらいい?」
必死だった。
今までにない大喧嘩をして、桐原に見放されたような杏子。頼れる所は桐原の親友である筑間しかなく、どうすればいいのか分からず泣きそうになった。思わず筑間に泣き顔を見せたくなくて、杏子は筑間の胸元を引っ張り顔を隠す。
「そんなの、俺に言っても」
と聞こえた瞬間、杏子の腕を掴んで引き離し、目の前に以前に会った女性が立っていた。
「碧に……触らないで……碧は私の…私の彼なの……っ…」
女性は泣きながらそう言って、強い意志を持った目を杏子に向ける。
(あ、碧くんの彼女……)
「恋…」
今までに聞いた事のない優しい声で、筑間が彼女を抱き締める。
(何その声……全然違うんだけど……)
筑間は杏子を後ろに向かせたまま、彼女とイチャイチャし始め、痺れを切らして振り向くと、彼女と濃厚なキスをしていた。
(ほんとに彼女に夢中なんだ……まぁ、友人にキスシーンは見せたくないか…)
それから彼女にはきちんと事情を話し、筑間にはいつも通りに乱暴な口調で直球な言葉をぶつけられ説得されて、杏子は自分から桐原にきちんと話をしなければ元には戻れないと思い、土曜日の朝から携帯を握り締め悩んでいた。
コーヒーメーカーからコーヒーの香りがリビングに漂い、杏子は一旦、携帯をテーブルに置いてキッチンに向かう。
マグカップを出し出来たコーヒーを注いで、砂糖とミルクを入れてスプーンでかき混ぜひとくち飲む。
「はぁっ……」
大きく息を吐き、カップを持ってソファーに戻ろうとしたその時、テーブルの上の携帯が鳴った。
「えっ…誰?」
慌ててソファーに戻り、テーブルにカップを置いて携帯を見る。画面には『皐』の表示。
「皐から…」
恐る恐る携帯を取り、深呼吸をして杏子は電話に出た。
「もしもし…」
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