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桐原に本当の事を話し、杏子の気持ちを告白しようと思っていたが、告白する前に振られてしまった杏子。大きなショックを受けながら、筑間の事を「好き」だと言っていた事は嘘だったと話し、桐原への想いは伝えずにいようと決める。
(私の気持ちを伝えても、またややこしくなるだけだし……二回も振られるのはキツイ…)
車がバックをしてどこかの駐車場に停まった。
「ここなら話せそうだ」
高台にある公園の駐車場。窓から街の景色が見える。2人はシートベルトを外し、窓を開けて張り詰める空気を入れ替えた。
桐原は窓の外を見上げて話し始める。
「俺も杏子と同じだよ。ずっと片想いしてるけど告白してない。告白出来ないんだ。眼中にないって分かってるから…」
「だから、私にあんな風に言ったの? 「未来はない、諦めろ」って…」
「うん……だってつらいのも、悲しいのも分かるから。泣いてる姿なんて見たくねぇよ…」
そう言って桐原は視線を杏子に向け、真っ直ぐに見つめて言った。
「好きな女が泣いてる姿なんて……見たくねぇよ…」
「えっ…」
耳を疑った。
(今、何て? 皐は…今、何て言った…?)
聞いた言葉をもう一度思い出そうとするが、ジッと真剣に杏子を見つめる桐原のカッコよさに脳が追い付かない。
「言うつもりはなかった。言っても困らせるだけだと思ってたから。でも今日で終わりにする。杏子……お前が好きだ」
混乱する脳に強い衝撃が撃ち込まれ、思考は完全に止まり言葉が出てこない。
「8年間の片想いにケリをつける事が出来た。だからお前も、碧に気持ちを伝えてケリをつけろ」
「ちょ、っ……ちょっと……っ…待って…っ…」
停止する脳から精一杯の言葉をかき集め、絞り出すように杏子は言った。涙を溢れさせ両頬を濡らし、滲む桐原に涙声で訊く。
「今の…っ……ほんと?」
「えっ…?」
「今のっ……私の事……好きって…っ…」
ポロポロ涙を零しながら杏子は尋ねる。泣いている杏子に戸惑い、訊かれている意味が分からず困惑している桐原。
「えっ? 杏子? んん? どういう意味」
「私も好き! っ……皐が好き!」
「はあぁ? えぇぇ? 碧の事が好きなんじゃ」
「嘘だもん! ずっと嘘ついてた」
「なんで! !」
「だって……皐が「碧の事好きだろ?」って訊いたから…っ……ムカツイて……ずっと皐の事好きなのにそんな風に言われたら腹立つでしょ! 私の事、興味ないんだって思った…」
「あ……あれは、俺のカケだった」
「カケ?」
「ごめん。試したんだ……杏子が何て答えるか。「友達だ」って答えたら告白しようって決めてた。でも「そうだよ」って答えたから、杏子を応援する事にしたんだ。片想いでいい、気持ちを伝えなくても俺が好きなだけでいいって」
「そんなカケしないでよ…」
涙が溢れて杏子は下を向き、涙でスカートを濡らす。
「ごめん杏子。俺のせいで……ずっとすれ違っていたんだな…俺達…」
桐原はそっと杏子の肩を抱き寄せ、助手席に身を乗り出しぎゅっと抱き締めた。桐原は杏子の目を見つめ告げる。
「ごめんな。ずっと杏子が好きだった」
「私も嘘ついてごめん。皐がずっと好きだったよ」
「ずっと聞きたかった言葉だ…」
そう言って、桐原は杏子の唇に唇を重ねた。
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