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恋が筑間のそばに駆け寄り、声をかける。
「何? 何か手伝おうか?」
筑間の横に並んで手伝おうとしたが、筑間が調理を始め、恋は少し離れて見る。
「あ、いや……何か…綺麗になったなぁって……見惚れてた…」
「ふふっ……碧のおかげだね」
「ふふっ、そうかもな! 俺の愛情はすげぇからな」
筑間がフライパンを振りながら答える。
「確かに! 碧って垣内さんと話す時と、私と話す時の話し方、違うよね」
筑間が恋の方へ視線を向けて言う。
「当然だろ! 垣内は皐と同じで友人。恋は俺が愛する人……特別なんだ」
真剣な目で見つめて言う筑間にドキッとして、恋は顔を赤くする。筑間は視線をフライパンの方へ戻し、調理しながら続けて言う。
「いつでも優しくして甘やかして、俺の腕の中で守っていたい。初めてそう思えた……特別な女なんだ…」
胸の中がぎゅっと締めつけられて、なぜか涙が滲んだ。嬉しいや幸せという言葉では表し切れない感情が恋の胸をいっぱいにし、息が止まりそうなほど胸が苦しくなった。
(私は碧と同じ気持ちを返せるかな……まだ知らない事が多すぎる…)
「ほらっ、恋、味見」
考え事をしていた恋に、筑間がスプーンに具材を乗せてスプーンの先を差し出す。とっさに恋が口を開けると、筑間がスプーンの先を口の中に入れて尋ねた。
「どう? 美味しい?」
「うんっ! 美味しい!」
「ふふっ、どれ?」
恋の頭を引き寄せて唇に口づけ、筑間は微笑んで言う。
「ほんとだ、美味い!」
「ふふっ、もうっ! それじゃ、味は分かんないでしょ!」
「ははっ、いいんだよ! 味は分かってるから」
「じゃ、味見する事ないでしょ!」
「いいだろぉ! キスしたかったんだから」
「う、うんっ…」
「ふふっ、照れてんの?」
「べ、べつにぃ……照れてないもん…」
「ふふっ、照れてんじゃん!」
筑間が人差し指でツンツンと恋の肩をつつく。
「照れてませーん…」
スネたように言って恋は筑間のそばから離れた。すると背後から筑間が恋を抱き締め、筑間の右手が恋の顎を上向かせた。すぐさま筑間の唇が落ちて来る。
「可愛いよな。恋…」
唇に重なった筑間の唇は、囁きながらキスをした。
出来上がった筑間の朝食を向かい合って食べる。店で食べるようなフレンチトーストとサラダ、コーヒーもついて、高級な朝食を堪能する。
「そういえば、私の両親に挨拶したいって言ってくれたけど、私も碧のご両親に挨拶に行かないとね」
食事をしながらそう言うと、筑間は一瞬、食事の手を止め微笑んで言った。
「いや、俺の両親はいいや…」
「えっ、どうして?」
筑間は表情を曇らせ少し沈黙した後、恋に話し始めた。
「実は、高校を卒業してフランスへ料理の修行に行く時、親と喧嘩して行ったんだ」
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