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「ふふっ、照れた。ほんと可愛いな、恋」
「だって……友達ってあまりいなかったし、すぐに名前で呼び合うって事なかったから…」
引っ込み思案で人見知り、内気な性格のせいか学生時代、友人は少なかった。名前で呼び合うにも時間がかかり、親しくなるまで時間がかかっていたが、小波は積極的に恋に話しかけてくれた。
「そうなんだ。じゃ、今まで彼氏は?」
恋は首を横に激しく振る。
「うそっ! 付き合った事ないの? 好きな人とかは?」
「ううん…」
恋はうつむいて首を振る。
「人と話すのが苦手だったし、男の子はちょっと怖かったかな…」
「そっか……恋は恋をした事がないんだ」
「うん。でもね」
恋は顔を上げて小波に訴えるように言う。
「社会人になって、これから恋をしてみたいって思ってる。昔とは違って男の人とも話せるようになったし、怖いと思わなくなったし」
「そうだね。春だし、恋の季節だしね。出会いもいっぱいあると思うし、楽しみだね」
「ふふっ、うん。華は? 付き合っている人、いるの?」
「ううん、今はいないかな。私も彼氏欲しいし、合コンでもセッティングするかぁ」
「合コン?」
「そう! 恋も色んな人と会って、交流を広げないとね」
注文した料理がテーブルに届き、2人は食事を始めた。料理はとても美味しく、優しい味がして思わず笑みが零れる。
「すごく美味しいね…」
「うん」
料理をゆっくり堪能しながら、2人は合コンの予定を立て、小波の過去の恋愛について話を聞いていた。
(恋かぁ……どんな感じなんだろう……恋の形とか色って聞いた事があるけれど……どんな形で、どんな色をしているんだろう…)
恋はそんな事を思い、ふと小波に尋ねてみる。
「華の恋の色って何色? 形は? よくハートを描くけど、どんな形をしてるの?」
「色? 色は……私は濃いピンクかな。形はやっぱりハートでしょ!」
「そうなんだ…」
「でも恋って、人によって色々あるだろうし、感じる色も形もそれぞれ違うと思うよ。それこそ『十人十色』だと思う」
「十人十色…」
「そう。十人いたら十人とも違う色があるっていう風に、色んな恋の色と形があると思うな。気持ちや相手によっても違うと思うし…」
「ふーん……」
「恋も恋をしたら分かるよ」
レジで会計を別々にしてもらい、2人はオフィスに戻る。
すぐあとからオフィスに戻って来た、1年先輩の赤尾 翼が声をかけて来た。出入り口で立ち止まる3人。
「お疲れ! 2人でランチ行ってたのか?」
「はいっ! 今話題の創作レストランなんですけど、この近くだから行ってみたんです!」
小波の声が少し弾んでいるように聞こえる。話している小波の表情も、どこか嬉しそうに恋には見えた。
「美味かった?」
赤尾は恋に尋ねて来る。
赤尾 翼、23歳。
大学卒業後、入社して2年目に入る。営業部の営業で、成績は中の上。恋に話しかけて来る事も多く、割と話しやすい先輩。
「はい。とても美味しかったです」
そう返すと、赤尾は笑みを見せて言った。
「今度、俺も一緒に連れて行って」
「是非!」
恋が答える前に、小波が前のめりで答える。
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