恋の季節

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「噂ではシェフもイケメンらしいですけどね」 小波が少し身を屈めて小声で言う。 「ふーん。お前らもそっちが目当てか?」 赤尾が疑いの目で恋と小波を見て尋ねる。 「違いますよぉ!」 「いえ…」 小波が慌てて否定し、恋も小さく否定する。 「ふっ、そっか…」 安心したようにひとつ息を吐き、赤尾は微笑んで言った。 しばらくして、3人のテーブルにランチセットが運ばれて来て食事を始める。フォークとナイフを使って前日とは違った料理に舌鼓を打ち、恋は美味しくて笑顔を零しながら料理を堪能する。 食後のコーヒーを飲みながら、3人はプライベートの事を話した。小波が赤尾に質問し、赤尾も休日は何をしているのか尋ねて来る。他愛もない話をして、昼休憩を過ごし、3人は別々に会計を済ませてオフィスに戻った。 その日から何度か『ビストロ キッチン』へ3人で向かい、日替わりで変わるランチセットを楽しんだ。 それから1ヶ月後。 5月のゴールデンウィークが明け、翌週の金曜日。小波がセッティングした合コンの日がやって来た。 仕事を終え週末の金曜日、夜7時。小波と恋はカフェで少し時間を潰し、合コン予定の居酒屋へ向かう。電車に乗り、居酒屋がある駅で降りて徒歩で店に向かった。歩きながら小波が話す。 「ちょっとお洒落な居酒屋にしたから、皆に気に入ってもらえると思うけど」 「華、合コンって、何人くらいの人が来るの?」 「ん? あぁ、大学の先輩2人にメンバーを集めてもらったんだけど、4対4の合コンだよ」 「4対4…」 「そう。先輩2人と恋と私の4人と、先輩達が集めた男性4人が来るよ。たぶん、皆、年上じゃないかな」 「と、年上?」 「うん。恋は(こい)をするの初めてでしょ。だから年上の彼にリードしてもらった方がいいと思うから」 話していると、小波が店の前で立ち止まった。 「着いた、ここだよ。もう誰か来てるかもね。恋、行くよ」 「う、う、うん…」 急に緊張してくる恋。どんな人達が来るのか、想像もつかなくて恋はドキドキしながら、小波のあとに続き店の中に入った。 店員に迎えられ小波が名乗ると、予約している部屋へ案内された。店の奥へ入って行き引き戸を開けると、長いテーブルに椅子が4脚ずつ向い合せであり、テーブルにはすでに料理が用意されていた。 そして男性2人と女性2人が先に来て座っている。 「大学の先輩達だよ」 小波が恋に耳打ちする。部屋の中に入り、小波が女性達の元に行く。そのあとを恋も追い、小波のあとに挨拶をする。お互いに自己紹介をして、小波と恋も椅子に並んで座った。 先輩達の向かい側に座っている男性2人が、恋と小波に言う。 「あとの2人も友人なんだけど、お店をしているからちょっと遅れてるみたいなんだ。もう来ると思うんだけど…」 「そうですか…」 その時、部屋の引き戸が開いて、先に来ていた6人が一斉に出入り口に注目する。 「ごめん、遅くなった!」 そう言いながら入って来た男性は『ビストロ キッチン』のスタッフの男性。 「えっ! うそっ!」 小波が驚いて声を上げる。その男性のあとから、部屋に入って来たもう1人の男性。 (えっ……今、目が合った…?) チラッと恋の方を見て、視線が合った気がした恋。だがすぐに視線は逸らされ、2人の男性が近づいて来る。
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