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ハッシュドポテト殺人事件
ニュースキャスター 「昨日、冬静町で女子高校生の遺体が発見されました。遺体が発見されたのは、冬静高校から一番近いコンビニエンスストアの駐車場から200m離れた地点で、目撃者によりますと『急に自転車ごと倒れた』と話しているようです。これを警察はーーー」
そんなニュースを呆然と眺めていると、凪さんがホットミルクを淹れてくれた。少しずつそれを飲むと体が温まってきて意識がはっきりとして来た。朝からこんなニュース聞きたくなかった為チャンネルを変えると、どこのテレビ番組でもこのニュースを取り扱っていた。どうしてこんなに事件になっているんだ、と不思議に思ってニュースを聞いていると、不思議な言葉が聞こえてきた。
コメンテーター 「いやぁ、今回の事件はとても難しい。何にせよ、死因が『ハッシュドポテト』なんですから。」
朔 「死因が『ハッシュドポテト』…?」
凪 「そうみたいだね。このことについても調査するのかい?」
朔 「依頼が来れば、です。自分からこんなことに首を突っ込みたくはないです。」
そんなことを話して学校に行くと、目元がピンク色に腫れている弥生の姿があった。弥生の取り巻きたちはそんな弥生のことを心配そうに眺めていた。僕には関係ない、と思って特に何も言わずに自分の席に座った。しばらくしてから先生が入ってきて、朝のホームルームが始まった。その先生の目も少し腫れていた。…というか、どうして隣町の事件なのに、弥生だったり先生だったりが悲しんだりするんだ、と疑問に思った。そして、それはすぐに解決された。被害に遭ったのはこの学校の生徒だったのか、と。そして、その人は弥生の友達である可能性が高いということだ。
朔 「(となると…亡くなったのは…)」
僕は振り返って、僕の1つ右の列の4番目の机を見た。そこには、花瓶に入った花が添えられている。やはり、被害に遭ったのは弥生の大親友である神凪 真白だった。親友が亡くなってしまったらそれはあんなにギャルっぽくてもショックを受けるか…。そう思っていると、何故か依頼も受けていないのに事件を解決しようとしている自分がいたことに気がついた。
弥生 「ねぇ…」
朔 「…?」
弥生 「依頼…するからさ、真白を殺した奴が誰なのか、教えてよ。」
朔 「え…それは全然良いけど…だとしたら、僕はまず君を疑うよ?」
すると弥生は頷いて、鞄の中に入っている、事件があったコンビニの揚げ物などを入れる袋のゴミを取り出した。話を聞くと、これは真白が食べていたハッシュドポテトが入っていた袋らしい。彼女が倒れた後に駆けつけた弥生は、鞄の中に入っていたこれを持ってきたのだと言う。
弥生 「食中毒とかだったら、何か分かるかもしれないと思ったんだ…。」
朔 「…そうか。ありがとう、弥生。」
和樹を教室に呼び出してそのゴミを調べるように言うと、昼休みごろには結果をもってくる、と言ってくれた。彼は僕と同じような異能力者で、彼は物質を調べることができる能力を持っている。調べてもらっている内に、僕は弥生から話を聞いて、昨日あの辺りにいた人達を集めてもらうことに成功した。まず1人目は、目撃者の斎藤 拓実だ。僕と弥生と同じクラスの1年4組の男子高校生。クラスの中では一番の人気者で、真白とは幼馴染みだったらしい。
2人目は、奈月 心音。1年2組の女子高校生で、真白とは家が隣同士らしい。そして3人目は、有明 沙樹。2年1組の女子高校生で、この学校の生徒会長だ。そういえばついこの間代替わりしたばかりだったっけ。そんなことを思い出しながらこの3人のことを見つめた。現時点で証拠になりそうなものは全員所持してはいなかった。そこで、まずは拓実に話を聞くことにした。
朔 「拓実、事件が起きたところを見ていたんだよな、詳細を教えてほしい。」
拓実 「…ああ、わかった。…俺はいつも自転車で通学してるからさ、自転車漕いでたら自転車がパンクしちゃって。ちょうど近くにコンビニがあったからそこによって母さんに連絡して、自転車を自転車屋に持っていったんだ。その時、母さんから返信が来て、迎えに行くから待ってろって連絡が来たんだ。」
朔 「…それで、君はコンビニの前で待っていたんだね?」
拓実 「そうだ。それでしばらく待ってたら真白が出てきてさ、ちょっと話したんだ。『何買ったんだ?』って。そしたら、『ハッシュドポテト買ったんだ』って笑顔で言ってきてさ、すごく嬉しそうだったな。で、そのハッシュドポテト、俺に半分くれたんだ。だけど、沙樹先輩がその後に来てさ、まだ食べてたのに袋から取り出してさ、口で咥えて自転車漕いで行っちまったんだよ。」
言い終えると、拓実はちょっと悲しそうに俯いた。でも、拓実がハッシュドポテトを半分食べたのなら毒が盛られていたわけではなさそうだ。これはさっき頼んだ袋からも何も出てこないだろう。次に、外見調査…だけれど、ここは学校だから弥生みたいな奴は崩した格好をしている奴はそうそういない。拓実もその1人で、ちゃんと制服を着ている。次に、この学校の生徒会長、有明先輩に話を聞くことにした。
朔 「有明先輩、わざわざ時間をとってくれてありがとうございます。」
沙樹 「…いいのよ。それで、真白ちゃんのあの事件を調べているんだっけ?」
朔 「そうです。どうして有明先輩が来たら真白は急いでその場を立ち去ったと思いますか?」
沙樹 「あぁ、それは…きっと、私に気を遣ったからね。」
朔 「気を遣った?」
沙樹 「…実は、私と拓実は付き合ってて…それを知っていたから、じゃないかしら?」
朔 「……そうですか。」
拓実に確認してみると、2人が恋人関係にあることは事実らしい。拓実はちょっと恥じらいながらもそれを認めた。このことから、僕はある1つの推理に辿り着いた。もしかしたら、これは不運な事故だったのかもしれない、と。
朔 「…なるほど。でも、袋から何か出てきたらこの推理は成り立たない。」
和樹 「おーい、朔ーっ!」
ちょうど良いタイミングで和樹がやってきた。そして話を聞くと、やはりあの袋からは何も出てこなかったらしい。
朔 「やっぱりそうか。…これで謎は解けた。待たせたね、弥生。さぁ、推理の時間だ。」
弥生 「…犯人はわかったのかよ?」
朔 「…そもそも、この事件に犯人なんていないんだ。真白は、不運な事故に遭っただけなんだから。」
弥生 「えっ?!」
朔 「真白の死因は…恐らく窒息だ。真白はコンビニを出ると幼馴染みの拓実と会う。その時、ハッシュドポテトを半分分けたそうなんだ。そして、有明先輩が来た時に、浮気だと思われたくなかったんだろうな、真白はハッシュドポテトを咥えて自転車に乗った。そして、噛みながら走行していると、きっと食べていたハッシュドポテトが気管に入ってむせたんだろう。けれど、真白の口にはまだ咥えているハッシュドポテトがあった。うまく息ができなくなって、真白は窒息死したと考えられる。」
弥生 「そんな…、そんな、こと…。」
朔 「…きっと、真白もこんなことで死にたくなかったはずだ。だから、彼女に会って、ちゃんと別れを告げてくるんだ。それに、君が会いに来てくれたら喜ぶと思う。」
弥生 「……そうか。」
こうして、この事件は解決した。今回話を聞いた有明先輩と拓実にお礼を言おうと思って教室を見渡してみるも、2人ともいない。どこに行ったんだろう、と思って他の教室を覗いていると、家庭科室から悲鳴が聞こえた。この声は、拓実のものだった。急いで様子を見に行くと、有明先輩が拓実に包丁を向けていた。…生徒会長が何してるんだか。
沙樹 「ねぇ、なんで真白からもらったハッシュドポテト食べていたの?なんで私じゃない女からもらったものなんて食べてたの?」
拓実 「…だ、だって、そりゃもらったら食べるだろ…。」
沙樹 「ふぅん…、じゃあ今日は私があげるね。」
…有明先輩の意外な一面が見られた日だった。
家に帰ると、今日の事件のニュースがやっていた。
ニュースキャスター 「昨日起こった事件ですが、被害者の死因は窒息で、不運な事故だったのではないか、と警察は新たな視点から捜査を続けるそうです。」
晴流 「あ、この事件事故だったんだ。」
朔 「ただいま…って、早速やってる。」
晴流 「やっぱりこの事件も朔くんが解決したの?」
朔 「…まぁ、依頼が来たからね。」
晴流 「さすが、名探偵!」
そう言われると、少し嬉しかった。それに、弥生からも事件を解決してくれてありがとう、とお礼が来た。
朔 「…明日も頑張るか。」
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