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鍵の無い体育倉庫
和樹 「おはよう、朔!」
朔 「和樹、おはよう。君はいつも早いね。」
和樹 「まぁ、この時間に電車乗らないと遅刻しそうになるし…。で、朔はなんで今日こんなに早いんだ?」
朔 「それがね…、建紀先生に面倒くさいことを頼まれてしまって…。」
今日は、僕達の体育教師、建紀先生に体育倉庫の整理に誘われたのだ。いつ行うのか聞いたところ、授業が始まる前だと言う。もともと朝が苦手な僕には大事件だった。けれど、なんとか起きて学校に向かっている途中、和樹と遭遇したのだ。きっと和樹は園芸部の朝の水やり担当だから早いんだろう。一緒に学校に行くことになると、和樹も仕事が終わり次第、体育倉庫の整理を手伝ってくれることになった。電車を降りると、和樹は先に行く、と言って走って行ってしまった。朝から走りたくなんてなかった僕はその後をゆっくり追うことにした。学校に着いて職員室に寄り、体育倉庫の鍵を取ろうとすると、もう鍵は既に取られていたようで、いつも鍵のある場所にはなかった。和樹が持っていったのかもしれない。そう思って、僕は体育倉庫に向かった。
朔 「…あれ?」
体育倉庫に来ると、鍵がかかっていた。押してみても引いてみても、横にスライドしようとしてみても、体育倉庫の扉が開くことはなかった。先生が鍵を持っていて、まだ来ていないのかもしれないと思った僕は少し待ってみることにした。その直後、扉の内側からドンドン、と扉を叩く音がした。
和樹 「おい!誰か外にいるのか?!開けてくれ!」
朔 「えっ、和樹?!どうして扉の内側に?!」
和樹 「この声は、朔だな?!いや、なんか急にここに閉じ込められてしまって…。」
…音声機器から出力されている音ではないか確かめる為に、僕は扉の内側を見ることにした。確かに、そこには和樹と、ジョウロと、小さな鉢植えの花があった。後者2つは和樹が持っていた物だろう。
朔 「…扉の開け方を探してくるよ。だから、そのうちに整理は頼んだ。」
和樹 「えぇ…、まぁ、仕方ないか…。わかった!じゃあそっちはこの開かない扉の謎の推理、頼んだ!」
まずは、先生に話を聞くことにする。先生を捜していると、グラウンドで白線を引いている所を発見した。
朔 「先生、体育倉庫の鍵持ってますか?」
建紀先生 「いや、持っていないな。さっきから白線を引いていたから、まだ職員室には行けていないんだ。もしよかったら先に始めていてくれないか?」
朔 「それが…、職員室に鍵がなかったんです。けれど、何故か和樹が体育倉庫に閉じ込められてしまっているんです。」
建紀先生 「和樹…あぁ、茜か。でも、鍵がないのに茜はどうやって入ったんだ?あいつが自作自演してるんじゃないのか?」
朔 「鍵を持っていない状態であそこに入ることはできませんよ。あそこには窓もない。だから、鍵で扉を開け、内側から鍵を掛け、窓から鍵を捨てる、なんてことはできません。それに、和樹は小さな鉢植えの花とジョウロを持っていて、両手が塞がっていたんですよ?」
建紀先生 「うむ…確かに。」
先生は納得したように頷いた。けれど、僕は納得しなかった。自分で言った言葉が気になってしまったからだった。和樹は両手が塞がっていた。なのにどうやって和樹は中に入ったんだ?扉を開けることなんて、できなかったはずだ。
朔 「…わからない。これはもっと色々な人に話を聞く必要がありそうだ…。」
そこで、この学校がお世話になっている作業員の人達に話を聞いてみることにした。
朔 「こんにちは。少し聞きたいことがあるのですが…。」
作業員1 「ああ、こんにちは。いいですよ、何でも聞いてください。」
朔 「体育倉庫に何かしらの仕掛けがあるって話とか、聞いたことありませんか?」
作業員1 「さぁ…、よくわからないな。あ、でもあのベテラン作業員ならわかるかもしれない。」
作業員が指を指した先には、確かにベテラン気質な作業員がいた。その作業員にも話を聞いてみる。
朔 「…こんにちは。少しお話聞いてもいいですか?」
ベテラン作業員 「…いいですよ。」
朔 「体育倉庫に何かしらの仕掛けがあるって話とか、聞いたことありませんか?」
ベテラン作業員 「そうだな…、あ、そういえば、以前あの体育倉庫に閉じ込められる事件が多発した時があったな…。なんでも、先生が生徒が揃っているのを確認しないで体育倉庫の鍵を閉めてしまっていたようだったから、センサーを付けて人が閉じ込められるのを防いでいたはずだ。」
朔 「…なるほど…。そのセンサーが壊れている可能性って…?」
ベテラン作業員 「どうだろうな…、見てみないとわからない。見てこようか。」
そう言って、僕はベテラン作業員と共に体育倉庫に戻ってきた。中からは、ホウキで床を掃いている音が聞こえている。ちゃんと整理の方はしてくれているようだ。ベテラン作業員と僕はセンサーがある位置に立ってみた。けれど、センサーは動かなかった。
ベテラン作業員 「…センサーが壊れているのかもしれないね。直してみるよ。」
朔 「ありがとうございます。」
少し経ってから、ベテラン作業員は首を傾げた。聞いてみると、壊れている所はない、と言うのだ。そんな時、ドンドンと扉が叩かれた。そして、整理が終わった、との報告が来た。その直後、ジョウロと小さな鉢植えの花を持った和樹が体育倉庫から出てきた。センサーが反応したのだ。
朔 「…そう言うことか。さぁ、推理の時間だ。」
和樹 「…なんで俺出てこられたんだ?」
朔 「センサーが反応したからだ。普通、体育倉庫は鍵がないと出たり入ったりすることはできない。けれど、このセンサーが反応した場合だけ、特例で扉が開く仕掛けになっていたんだ。」
ベテラン作業員 「…どうしてこんな変な気まぐれで反応するセンサーなんて付けていたんだ…?」
朔 「それは…先生や、生徒のためでしょう。倉庫にものを運んだりする時、扉が開いていないと鍵が来るまで重い用具を持ったまま待たなければいけないし、体育倉庫に閉じ込められる事件が多発した。だから、このセンサーをつけた。けれど、このセンサーが反応するのには条件があった。」
和樹 「それがわかんないんだよな~…。」
朔 「和樹がここに来たときは、扉が開いていたんじゃないの?」
和樹 「そう!だから、もうやってんのかなって思って見に来たんだけど誰もいなかったから、見えないところにいるのかもって思って中に入ったら閉じ込められて…。」
そこで、和樹はハッとした顔をした。センサーは、和樹に反応したから扉が開いていた、ということに気がついたようだ。
朔 「センサーが反応する条件は、両手が塞がっていることだ。センサーが反応する位置にいた和樹は、両手が塞がっていた。だから、センサーが反応して扉が開いていた。けれど、中に入ってセンサーが反応しない位置に和樹が移動したから、扉が閉じた。閉じ込められた、と思った和樹は助けを求めるために扉の前に行った。ジョウロと花を置いてね。じゃないと扉が叩けない。だから、センサーが反応しなかったんだ。それに、外にいた僕も、何も荷物は持っていなかったから、センサーが反応することはなかったんだ。和樹が花とジョウロを持って扉に近づけば、扉が開いたはずだ。」
和樹 「そういうことか~…」
そんな時、建紀先生が鍵を持って走ってきた。
建紀先生 「ごめんな、ここの鍵を職員室の自分の引き出しに入れていたのを忘れていたんだ。…って、あれ?出てこれたのか…。」
朔 「このセンサーでね。…それと、もう整理は終わりましたよ?」
建紀先生 「そうかそうか、さすが『慧眼の名探偵』だな!」
先生がそう言うと、ちょうど朝のショートホームルーム開始のチャイムが鳴った。僕たちは急いで教室に戻って、授業を受けることになった。
これにて、一件落着。
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