あたたかい雪

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 雪の降る日は温かい日。  北国育ちの母の言葉だ。  雪は冷たいよ? 首を傾げた私に母は微笑んでいた。  母の言葉を思い出したのは、今夜の雪予報のせいか、今自分がいるこの部屋の空気のせいか。  耳鳴りがする。  誰一人息をしていないのかと思うほどの静けさが異常な空間を作り出していた。  私に突き刺さる無数の視線が、暖房が効いて温かい筈の部屋を氷点下にしている。音の無い部屋は刺すような冷気に満たされていた。 『本当に寒くなると雪も降らなくなるの。空気が無くなったのかと思うくらい音がなくなって、突き刺すような痛みを感じるの。耳鳴りがするくらい、静かなのよ』  本当だね、お母さん。  薄くなった空気をゆっくり吸い込んだ時、上司が沈黙を破った。 「君がすべき事は、分かっているね」  私が悪かったのですか? 私は、懸命に会社の為に……言葉を呑み込む。  ここに私の味方はいなかった。震える声で「はい」とだけ答えていた。  外に出ると、暮れた空から雪が落ちてきてきた。 「お母さん……」  口にした瞬間、涙が溢れた。  通行人達が足早に通り過ぎていく中で、私は声を出して泣いた。  牡丹雪がフワフワと包み込むように降り続けていた。
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