白い記憶

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第2章  それからどれ位経った頃だろうか。ある時親に言われて回覧板を隣の家に持って行ったことがあった。回覧板にはその住宅地を何分割かにした一つのグループに属する家の名字が書かれてあり、そこに書かれている順番にその回覧板を回すようになっていた。うちの次は相川さんだった。そして相川さんの次は石井さんだった。私は良く知っているご近所さんの名字をそうやって確かめて行った。 (あれ?)  するとその中に私が知らない名字が出て来た。その家は私の家の4軒隣だった。 (東條さん?)  私はそれがどんな人だろうと思った。私の記憶にはない名字だったからだ。それで家に戻ると早速そのことを母に尋ねた。 「少し前に引っ越して来た人よ」  母の答えは至って簡単だったが、するとその人が引っ越して来た替わりに誰かがそこから引っ越して行ったことになることに気がついた。でもそれが誰だかすぐには思い出せなかった。 「ともちゃんが引っ越した後に越して来たの」  すると元はそこに誰が住んでいたかを母が教えてくれた。それはみんなからともちゃんと呼ばれていた子の家族だった。ともちゃんは私より5つ年下で、秋野智也といった。 「え、ともちゃん引っ越したの?」 「ええ」  ともちゃんが引っ越したことは初耳だった。歳が5つも違えば、ともちゃんとの接点はほとんどなかったので当たり前だったが、年に数度の子供会の行事では一緒になったことがあったので少し寂しい気もした。 「そうね。突然だったから、お母さんもだけど、近所の皆さんも驚いてた」 「どこに引っ越したの?」 「聞いてない」 「そうなんだ」  ともちゃんとうちとはそれ程親しくはなかった。私とともちゃんもそうだったが、親同士の年齢も開いていたので特に接点がなかったのだろう。 「でもね、少し変なことがあったの」 「え?」 「引越しする数日前からともちゃんの姿が見えないって、どうしたのかしらって、ほら、かずくんのお母さんが心配してたの」  かずくんとは私の同級生のことだった。彼には弟がいて、その弟がともちゃんと同じ幼稚園に通っていた。 「おたふく風邪にでもなったのかしらって噂してたんだけど、そんな時に慌てて引越しなんてしないものね」  母の話はそこで終わった。私もともちゃんと親しい関係ではなかったので、それ以上その話を掘り下げようとはしなかった。
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