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第3章
しかしそれから数日後、何かの流れでかずくんにこの話をすることになった時だった。彼は予想外の反応をした。
「弟のひろがともちゃんと同じ幼稚園だろ。それで聞いた話なんだけど幼稚園もいきなり来なくなったと思ったら、それからすぐに引越しするから幼稚園を辞めるって連絡が来たんだって」
「え?」
私はその話に子供ながらとても違和感を覚えた。
「しかも、ともちゃんは最後まで顔を見せなかったんだって」
「どういうこと?」
「親が言うには伝染病に罹って入院しているじゃないかって言ってた。それでね、その時にともちゃんのお父さんが仕事の関係で転勤になったんじゃないかって」
「そうなんだ」
その頃私達の学校では1、2名の生徒が赤痢になったことがあった。それで校内に保健室にあった白い洗面器に消毒液を入れた物があっちこっちに設置されていた。私はそんなこともあって、その話に納得してしまった。
「でもね、どうやらそうじゃないらしいんだ」
(え?)
「ひろが聞いたっていうんだよ」
「何を?」
「ともちゃんがいなくなる前に、ともちゃんから聞いたっていうんだよ」
「何を?」
「うちの住宅の外れに禁断の場所と呼ばれてるとこがあるのを知ってる?」
「え?」
私はかずくんの問いに咄嗟にとぼけた。
「そこには決して近づいてはいけないって親に言われたことがない?」
「あるかもしれない」
「どうやらそこにともちゃんが行ったらしいんだよ」
「え!」
「ひろがともちゃんに誘われたらしいんだ。でもひろは親から言われていたからね。それで断ったらしいんだ」
「じゃあともちゃんは一人で行ったんだ」
「しかもひろが誘われたのがともちゃんが幼稚園を休み出す前の日らしいんだ。だからともちゃんがそこへ行って、そしてどうかなっちゃったんじゃないかって思うんだ」
私はかずくんの話を聞いて背筋が凍った。
「じゃああそこ、その禁断の場所をみんなで捜したの?」
「親達はそのことを知らないよ。ひろもずっと黙ってたしね」
「じゃあかずくんはどうしてそのことを知ったの?」
「ひろが寝言で言ったんだよ」
「寝言?」
「うん。ひろの寝言がうるさくて起きちゃったんだよ。それでひろがともちゃんにあの場所に誘われたことを知ったんだ」
「そうなんだ」
「それで翌朝親がいないところでその寝言のことをひろに聞いたんだ。するとともちゃんからそこへ行ってみないかって誘われたけど、自分は親に怒られるからと断ったと白状したんだ」
「そうなんだ」
「僕もこんな話を親には言えないし、なんか心が痛むよ。でも今日飛鳥君に話せてなんか少し楽になった気がする」
私は一瞬自分もあの場所に行ったことをかずくんに話そうかと思った。しかしそれは止めた。もしそのことを彼に知らせたら何か特別な扱いをされるような気がしたからだ。その地を訪れた者とそれ以外の者ということではっきりと線引きをされるような気がした。それは一種の差別のようにも思えた。何かを犯した者というレッテルを貼られるようにも思えた。そしてその瞬間私はかずくんとは異質のものになってしまう気がしたのだ。
「そこでなんだけど、僕たちでともちゃんを捜してみないかい?」
しかしかずくんの口から漏れた言葉は意外だった。
「禁断の地へ行ってみようということ?」
「うん。嫌かい?」
私はその時もし行かないと言ったらどうなるのだろうと思った。きっとかずくんから臆病者扱いをされるだろうと思った。そしてかずくんはあの地へ行った者、私はあの地へ行ったことがない者として友達でなくなってしまうかもしれないと思った。
一方行くと答えたらどうなるか。もし、かずくんに同行してあの地へ行けば以前かずくんを無視して一人で行ったことが帳消しになるように思えた。つまりその事実は消え去ってあの地の記憶はかずくんと同行した時のものに塗り替えられると思ったのだ。それで私の考えは決まった。
「うん。行くよ!」
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