白い記憶

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第7章  かずくんの葬式を訪れた同級生はみんな声を出して泣いていたのを覚えている。そしてかずくんの両親はすっかり憔悴し切った様子で所在無く並んでいたのを覚えている。そして私はかずくんと二人で行ったあの禁断の地の出来事だけが何度も何度も頭の中に蘇っていたのを覚えている。それはかずくんが私を置き去りにして、私の目の前から消えた瞬間だった。あの白い塀に取り囲まれた私が、かずくんがその出口を過ぎて左折したことで私の視界から見えなくなった様子が幾度となく私の脳裏に想起された。  私は両腕を使って最後の力を振り絞り洞窟の入口に向かっていた。それはその白い雪の壁を越えて、その左側を確認したかったからだ。そしてもしかしたらそこにかずくんがいるかもしれないと思った。  あの日、私の目の前から消えたかずくんはその入口を出た左側に隠れていて、私に見つけられるのを待っているような気がした。私は精一杯の力を出して自分の重い身体を引きずり続けたがやがてそれは力尽きた。見ると入口まではまだ5メートル以上はあった。 (無理だよ、かずくん。かずくんには追いつけないよ。だってかずくんは学校で一番足が速かったろ)  リュックの中からピッケルを取り出してそれを地面に突き立てて、それで更に前進しようと思ったが、リュックは先ほどまで私が居た場所にあった。とてもそこまで戻る気力も体力もなかった。それで諦めた。そして諦めた瞬間、もう入口に進むことも、リュックのあった場所に戻ることも出来なくなっていたことに気がついたのだった。
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