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放課後の話し合い
放課後、野口さんはやっぱり僕のところにやってきた。
「羽多野くん、予餞会のことなんだけど」
彼女は切羽詰まったように僕を見る。
「私、歌えない。ギターは確かに弾けるけど、人に見せられるものじゃないよ。他の人に代わってもらえないかな」
「と言っても、立候補も他薦もなかったし……他に何かできそうな人、知ってる?」
僕が言うと、彼女はぐ、と詰まる。
「……確か、高橋くんがドラムできたよね」
「3組のバンド演奏に助っ人で出るって」
「じゃあ、みんなでダンスとか」
「それはバレー部がやることになってる」
「演劇は?」
「今から準備するっていうのも……」
「……」
野口さんは口を噤んでしまった。別に橘さんの肩を持つわけじゃないけれど、どうせならと僕は素直に伝えることにした。
「野口さんのギター、上手かったよ」
「聴いてたの!?」
僕は昨日、駅前で野口さんが歌っているのを見ていたことを打ち明けた。
「すごく上手かったし、かっこよかった。みんなに見せても全然恥ずかしくないよ」
「そんなことない!上手い人はたくさんいるし、レパートリーも少ないし」
私なんか全然、とだんだん消えそうになっていく声で彼女は訴える。昨日はあんなに大きな声で歌っていたのに、どうしてこんなに学校では自信がなさそうなんだろう。あんなに楽しそうに歌えるのに。好きな楽器を好きなように弾けるって、
「……僕は羨ましいけどな」
僕の呟きに、えっと彼女は顔を上げる。
「ごめん、なんでもない」
声に出ていたようで僕ははっとした。
「とりあえず、一晩考えてみて。どうしてもっていうならもう一回みんなに聞いてみるよ。でも」
僕は鞄を持って立ち上がり、野口さんを見た。
「僕は野口さんの歌、すごく聴きたい」
じゃあ委員会行ってくるね、と言って僕はその場を去った。
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