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夜の街へ
卵がないのよ、と母さんは言った。午後6時、学校から帰って自分の部屋でパソコンに向かっているときだった。
「割引券が今日までなの。游、行ってきてくれない?」
お釣りで好きなもの買っていいから、と母さんは勝手に僕の部屋に上がり込み、千円札と割引券を差し出した。
「拒否権はないの」
「明日のお弁当の卵焼きがなくてもいいなら行かなくてもいいわよ」
僕がう、と詰まると、母さんは勝ち誇ったようににやりと笑う。母さんの卵焼きは僕のお気に入りメニューだ。ひじきが入っていたり、しらすが入っていたり、日替わりでボリュームがあるのがいい。
分かったよ、と僕がそれを受け取ると、母さんは助かるわとにっこり笑顔を浮かべて台所へ戻っていった。
僕は打ち込んでいたデータを保存すると、制服の隣にかけてあったコートを羽織り、財布とスマホを持って外に出た。1月の風は冷たくて痛いぐらいだ。僕はマフラーと手袋で防寒して、自転車をゆっくりと漕ぎ始める。星が綺麗に瞬く夜だった。
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