大時計

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大時計

大時計(おおどけい)の掃除?」 「ええ。この世界は、常に人手不足ですから、月霞(げっか)さんが働きたいと言うのなら、お仕事を斡旋することは出来ます」  水晶玉──生物の魂を磨きながら、ネネは妖艶な笑みを浮かべた。  月霞が黒の世界に来て、数日が経過していた。  月霞は毎日、ネネの工房を訪れては、白の世界に帰るための方法を調べると約束してくれたネネから、調査の進捗状況の報告を受けていた。  ネネとて、暇ではない。  罪が刻まれた魂が、毎日死神から送られて来るし、それは最初に訪れた時より、明らかに増えていた。  調査は、ネネの仕事の邪魔にならない範囲で良いと、月霞は告げてあった。  正直、帰る方法が、一日二日で、簡単にわかるわけがないだろうというのが、月霞の見立てである。  シェアハウスでハンナの手伝いをしたり、仕事に精を出す半人前たちの使命感に触れるうちに、自分も何かしなければと、焦りのようなものが生まれたのも事実だ。  この世界にも、お金というものが在ると知り、ハンナや半人前たちに与えて貰うばかりでなく、自分の物は自分で稼いだお金で買いたい、とネネに相談していた。 「月霞さんが良ければ、明日からでも、働きに来て欲しいと、責任者から連絡が来ました」 「忙しいのに、私なんかのために、ありがとうございます」  言ってから、また『なんか』を使ってしまったことを反省する。 「良いのよ。  それより、大夢(タイム)はちゃんとフォローしてくれている?  生活で困ったことはないかしら?」 「大夢さんは……お忙しいみたいで、シェアハウスにあまり帰って来ません。  ハンナさんや半人前たちとは、みんな優しいから、上手くやっている、と自分では思ってます」 「そう。  大夢にも、もう少し、月霞さんのことを気に掛けるよう言っておくわね」 「そんな……大夢さんには良くして貰ってますし、これ以上迷惑を掛けられないというか……」 「月霞さんは控え目な方ね。            もっとわがままを言っても良いのよ。  理不尽にも、あなたは手違いでこちらに来てしまったんだから」 「ありがとうございます」と月霞は頭を下げる。 「じゃあ、明日の夕方、大時計の前に集合して欲しい、とお達しがあったから、行ってみて。  くれぐれも、無理はしないでね。  わからないことは、恥ずかしがらずに何でも聞くのよ。  わからなくて当然なんだから。  大時計は、少しでも扱いを誤ると、及ぼす影響力が大きいから、細心の注意を払ってね」 「は、はい……」  大時計は、白の世界の基準となる時計なのだと言っていたか。  この世界でも、かなり重要な役目を負っているのかもしれない。  この世界の象徴的な存在、中心とでも呼ぶべきものなのかもしれない。  重い責任感と緊張が、月霞の体を駆け抜ける。 「プレッシャーをかけることを言い過ぎたわね。  あまり気負い過ぎないで」  月霞の様子に気付き、ネネが柔らかに微笑む。 「大丈夫よ。お仕事、楽しんで」  ネネの気遣いに、月霞は強張った笑顔を浮かべて、工房をあとにした。  翌日、ハンナ手作りの、ボーダーのシャツに青いサロペットの半人前の衣装に身を包んだ月霞は、ハンナに見送られ、緊張の面持ちで大時計へと向かった。  大時計の前には、大勢の半人前たちが集まっている。  陽が沈む前に終わらせたいということで、人海戦術で作業をするようだ。 「今日は昨日の作業の続きです。時計は、一秒でも狂えば白の世界に甚大な影響をもたらすことを忘れずに、丁寧に作業して下さい。  では、数人で班を作って、作業を始めて下さい」  拡声器で、そう指示をしているのは、リノだった。  ネネが言っていた、責任者とは、リノのことだったのかと、目を丸くする月霞の横を、脚立を抱えた半人前たちが、慌ただしく通り過ぎて行く。  大時計の文字盤の側面にある鍵穴に、リノが首から提げたネックレスの先端に付いた銀色の鍵を差し込むと、時計の文字盤が、ドアのように、ぎぎぎ、と開いて行き、内部が露わになる。  月霞は思わず息を呑む。  時計の内部では、大小様々な、数万、数億の歯車が、重なり絡み、噛み合いながら、時を刻んでいた。  繊細で、緻密に設計された時計は、圧巻だった。  こちらに迫って来るような、畏怖の念すら抱くような神秘的な光景。  一体誰が、芸術品のような、この時計を、どれくらいの時間を掛けて完成させたのだろう。  作った人の苦労がありありと伝わって来るようだ。  半人前たちは、ある者は勇敢にも数メートルの高さの脚立を上り、ある者は脚立を押さえ、高層ビルの窓拭きのようにゴンドラに乗って上空から吊り下げられている者も居た。  月霞に与えられた仕事は、動きが鈍くなっている歯車に、油差しで油を塗り、円滑に動くようにすることだった。  ペットボトルのような油差しを持って、月霞は、半人前たちが支える脚立を上って行く。  高所が得意ではない月霞は、下を見ないように、震えそうな足で歯車に近付く。  脚立は二メートルほどの高さだが、三十メートルはありそうな大時計の歯車全てに油を塗るのは、途方もない話だった。    歯車は、一見すると何の問題もなく動いているようだが、顔を近付けて、よくよく耳を澄ませると、ぎこちなく軋み音を立てている箇所がある。  繊細な造りの、大時計の生命線、歯車に、刷毛で埃を落としたあと、油差しで油を塗ると、歯車は間もなく滑らかに回転を始める。  この作業が、上と下から、百人近い半人前たちを動員して、毎日行われている。  全く、骨の折れる作業だ。  日没までの数時間、月霞と半人前たちは、大時計のメンテナンスに没頭した。 「陽が暮れます。  今日の作業は此処まで。  お疲れ様でした」  夢中になって歯車に油を与えて居ると、拡声器越しにリノの声が響いた。  一日作業をして、半分程手入れが出来ただけだ。  残りはまた、明日以降ということになるのだろうけれども、それが終われば、また最初に手入れした歯車に戻り、油を差す作業は、延々繰り返される。  これが「魂の修行」。  体験してみて、これはかなり過酷だと実感した。  シェアハウスに、疲労困憊で半人前たちが帰って来る理由を、月霞は身を以て理解した。    目を皿のようにして歯車を観察したせいで目は疲れて、気を張っていたので肩が凝っていた。  西陽が眩しく目に染みて、ぎゅっと目を瞑る。  軽く肩を回しながら、シェアハウスへの帰路へ就こうとしていた月霞を、呼び止める声があった。 「月霞ちゃん」  振り向くと、仕事から解放され、晴れ晴れとした表情の半人前たちを掻き分けて、リノが近付いて来た。 「仕事、お疲れ様。   初めての仕事はどうだった?」  リノに聞かれ、月霞は苦笑いを浮かべる。 「私って、本当に何もして来なかったんだなって、思い知らされたよ。  仕事してみて、どれだけ自分が甘えた生活して来たか痛感した」  リノは、月霞が何処から来たのか知らない。  しかし、それを追求することなく接してくれている。  自分と同じ歳なのに、しっかりした子だな、と月霞は思う。  シェアハウスでも、年下の半人前たちに信頼され、慕われているせいか大人びた雰囲気をしているが、いつも無表情で、何を考えているのか掴み難い少女でもあった。 「リノちゃん、大時計管理の責任者なんだね。  凄いね、びっくりしたよ。  私には、そんなこと出来ない」   リノは不思議そうに首を傾げる。 「やっても居ないのに、どうして、出来ないってわかるの?」 「え?だって、それは……」  リノは、心底不思議に思って聞いて来ただけのようで、他意はなさそうなのに、何故か責められているような、そんな気分になる。 「確かに、そうだけど……。  でも、私は人の上に立って働くなんて出来ないと思う。  向いてないって言うか、私なんかの言うことを聞いてくれる人なんて居ないだろうし、頼られるタイプでもないし……。  だから、リノちゃんは立派だなって」    しどろもどろになりながら、月霞は言い訳を並べる。 「ふうん?  やってみたら、月霞ちゃんにだって出来ると思うけど。  私だって、立派なんかじゃないのに出来るんだから。  やる前から出来ないっていうのは、勿体ないよ。  自分の可能性の芽を潰してると思う。  って、ちょっと偉そうかな」 「そんなことないよ!  リノちゃんの言う通りだと思う。  私って、本当にネガティブだよね」 「ネガティブだって、良いんじゃないかな。  変に自信過剰な人より良いと思うけど。  月霞ちゃんは、経験がまだ足りないだけで、きっと経験を積み重ねれば出来ることも増えてくるよ、大丈夫。  あ、そうそう、これ」  リノは、サロペットのポケットに無造作に手を入れると何かを掴み、丸めた手の平を差し出してくる。  月霞が反射的に手で受け取ると、かちん、と硬い物同士がぶつかる音がした。  自分の手の平に載せられた物を見る。  コインが二枚、そこに在った。 「これ……」 「今日のお給料。  金額は、みんな一緒。  一日お疲れ様。  私はまだ片付けとか残ってるから、先に帰ってて」  それだけ言うと、リノはさっさと大時計の方へ向かい、半人前たちに紛れて姿が見えなくなった。  ひとりになった月霞は、手の平のコインに目を落とす。  お給料。  人生で初めて、自分で稼いだお金。  たったコイン二枚なのに、ずしりとした感触が伴う。  月霞は、ぎゅっと、大切そうにコインを握りしめると、店仕舞いを始める商店街へと駆け出した。  疲れているはずなのに、足が軽い。  口元には、微かに笑みが浮かんでいた。  シェアハウスへ帰ると、珍しく大夢が帰宅していて、半人前たちに遊び相手にされていた。  ハンナのすすめで入浴を済ませ、重労働に軋んだ体を温かいお湯で癒やすと、ダイニングテーブルに向かった。  程なくしてリノも帰宅し、賑やかな夕餉が始まった。  いつも通りの夕食の光景。  大夢は、半人前たちのお喋りを窘めつつ、魚のフライを美味しそうに頬張っている。  疲れが溜まって見えた大夢を密かに心配していたが、この様子なら大丈夫そうだ。  食後、月霞は全員揃って居ることを確認すると、思い切って口を開いた。 「あの、これ」  そう言って、小さな袋をテーブルに置く。   「なあに、それ?」  半人前たちが、月霞の方へ身を乗り出して尋ねる。  月霞は、袋の口を逆さにして、ばらばらと中身をテーブルに落とす。  「チョコだ!」  誰かが嬉しそうに叫び、早速手を伸ばそうとする。 「待ちなさい。  月霞ちゃん、これ、どうしたの?」  リノが半人前を制し、テーブルに広がった一口サイズの、カラフルな包装のチョコレートを指差す。 「初めてのお給料で買って来たの。  いつも、みんなに助けて貰ってるから、そのお礼。  ひとりに一つしか買えなくて、申し訳ないけど、感謝を伝えられたらなって」  それを聞いて、険しかったリノの顔に、僅かな笑みが浮かぶ。 「ねえ、食べても良いの?」  半人前たちが、リノの顔色を窺い、お預けを食らったみたいにじりじりとチョコに視線を送る。 「良いよ。  みんな、好きなの選んで食べて。  ごめんね、ひとり一つなんだけど」 「そんなの良いよ!  ありがとう、月霞ちゃん!  チョコなんて暫く振り!」  半人前たちは、楽しそうに味の違うチョコを奪い合いながら、びりびりと包装を剥いて口に放り込む。 「うん、甘い!美味しい!」  もぐもぐと、口を動かしながら、半人前たちが幸せそうな笑顔になる。  それを見て、月霞も嬉しくなる。  やっぱり買って来て良かった。 「あたしも良いのかい?」  控え目にハンナが聞いて来たので、「もちろん」と月霞は答える。 「じゃあ、遠慮なく。あたしも暫くチョコなんて食べてないねえ」  ほくほく顔でハンナがチョコを含む。  その様子を見守っていた月霞は、ふと対面の席に座る大夢が、渋い顔をしていることに気付いて、首を傾げた。 「大夢さん、食べないんですか?」 「ああ。甘いものは苦手だからな」  大夢がそう言うと、「じゃあ、僕に頂戴!」と半人前がテーブルに残された大夢の分のチョコに手を伸ばす。  しかし、それに待ったをかけたのは、リノだった。 「大夢兄(タイムにい)、月霞ちゃんが、初めてのお給料で、せっかく買って来てくれたチョコだよ?  食べないの?」  いつもより数段低い、責めるような含みを持たせたリノの声に、大夢はたじたじになりながら、「わかったよ、食えば良いんだろ、食えば」と、自棄になったようにチョコの包みを剥いで口に入れる。 「あっ、大夢さん、無理しないで下さい」  慌てて月霞が止めに入るが遅かった。  もぐもぐと咀嚼し、大夢が唸る。 「甘い……でも、意外と美味いな」  大夢の言葉を聞いて、リノが満足そうに頷く。 「食わず嫌いなんだよ、大夢兄は。  ねえ、月霞ちゃん」  リノが月霞に視線を送り、悪戯っ子のような笑顔を作る。  リノは、そんな顔も出来るのか、と感心しつつ、年下のリノにやり込められた大夢の情けない顔を見て、月霞は噴き出してしまう。  大夢は悔しそうに銀髪を掻き回す。  シェアハウスのダイニングに、温かな笑顔が伝播して行った。  ハンナと半人前たちが、それぞれの部屋へ引き上げたあと、薄暗いダイニングで、死神と月霞はお茶をしていた。  二人の前には湯気が立ち昇るカップが置かれている。  もちろん、月霞のカップにはミルクをたくさん入れた珈琲が、大夢のカップにはブラック珈琲が注がれている。  毎日、とまでは行かないが、忙しい合間を縫って、大夢は月霞と話す時間を作っている。 「チョコ、無理して食べなくても良かったんですよ?」  月霞が思い出し笑いをしながら言うと、苦々しい顔付きになった死神がブラック珈琲を啜る。 「無理したわけじゃない。  ただ、なんだ、その……リノも煩かったし、疲労には甘いものが良いとか聞いたことがあるから食べただけだ。  それに、案外美味かった」 「そうですか。  お仕事、凄く忙しそうですね。  いつも帰り遅いし」 「ああ。毎日疲労困憊だ。  罪人は毎日やって来るし、死神に休日はない」  そう言う大夢は、大層疲れて見えた。  美しい顔が台無しな程、目の下の隈が目立つ。  帰りはいつも遅いし、帰宅しないことも珍しくない。  白の世界からやって来る、罪人たちを審判し、量刑を決める。  それは、決して軽い覚悟で出来る仕事ではない。  気も遣うだろうし、失敗は許されない仕事だからだ。  魂の今後を左右する決定を下すのだから。 「大夢さんは、どうして死神になったんですか?」  月霞の疑問に大夢は眉を顰める。 「は?何だ、突然」 「大変な仕事だし、どうして死神っていう仕事を選んだのかなって」 「選んだ……ねえ。  別にやりたくてやってるわけじゃねえよ。  黒の世界に生まれたやつはみんな、定められた道を行く。  それに不満はないし、疑問も持たない。  それが黒の世界に生まれて、生きるってことだからな。  お前たち、白の世界の人間はよく、将来の夢だの目標だのの悩みを持つようだが、理解出来んな。  ハンナだってネネだって、そうだ。  黒の世界に生まれ死んで行く者は、自分に与えられた役職を全うしてる、それだけのことだ」 「黒の世界には黒の世界なりの悩みがあるんですね」  一見理不尽に感じてしまうが、それは月霞が白の世界の住人だからであろう。  将来の夢は、自分で決める。  白の世界では常識とされていることは、黒の世界では通じない。  黒の世界の住人は、何の疑問も持たずに社会の一員として果たすべき職務を果たしている、それだけのことだ。  そこに、月霞が疑問を差し挟む余地はない。   「別に、誰も悩んじゃいねえよ。  不満があるとしたら、休みらしい休みがないことか。  ようやく、明日は一日休日になるが」 「そうなんですか、珍しいですね、本当に。  じゃあ、思いっ切り寝坊とか出来ますね」 「まあ、そうだな。  日頃のストレス解消するから、お前も手伝えよ」 「?  私が、ですか?  私に出来ることなら、何でもしますけど……」 「そうか、じゃあ決まりだか。  今日はそろそろお開きだ」  一方的に、そう宣言すると、大夢は、珍しく、本当に珍しく、鼻歌を歌いながらコップを片付け、寝室に姿を消した。  残された月霞は、『死神のストレス解消』とやらを、安請け合いしてしまったことに、一抹の不安を覚えたのであった。  翌日、リノと並んで出勤していた月霞は、何回目かの欠伸を噛み殺した。   「月霞ちゃん、眠いの?」  リノが心配そうに顔を覗き込んで来る。  月霞は慌てて首を左右に振って否定し、自分でも訳がわからないというようにぽつりと零す。 「寝不足って訳じゃないと思うんだよね。  ベッドに入ると、すぐに寝ちゃうし、朝まで起きないから、それなりの時間は寝てるはずなんだけど」  寝不足は、黒の世界に来てからの、密かな悩みの一つでもあった。  寝ているはずなのに、体が眠っている感じがしない。  部屋に置いてある物が、寝る前と違う位置にあったり、目覚めると部屋が散らかっていたり、買った覚えのない、何に使うかわからない、金属のパーツが机に転がっていたりする。  もしかして、これは夢遊病というものではないか、と月霞は不安を抱いていた。  眠りながらも、無意識に体が活動している。  夢遊病の症状が、どんなものかは知らないが、その可能性はあるのではないか。  大夢は、魂だけの存在である月霞は、病気になったり怪我をしたりはしないと言っていたが、少なくとも、白の世界に居た頃、こんなことはなかった。  難しい顔で考え込んでしまった月霞に、リノが「お医者さんに相談してみたら?」と気遣わしげに提案した。 「うーん、そうだね。  酷くなって来たら考えるよ」 「よく眠れるリラックス効果のある食べ物とか飲み物、ネネさんなら知ってるかな?」 「ネネさん?  ネネさんて、みんなに凄く頼られてるんだね」 「うん。  ネネさんは、物知りだし、頼りになるよ」  確かに、月霞を白の世界に帰す方法を調べてくれているネネのことだ、頭が良くて頼り甲斐があることは間違いない。 「今日は、仕事終わりに楽しみもあるしね。  良い気分転換になると思うよ」 「今日?  今日、何かあったっけ?」 「家を出る時、大夢兄に言われたでしょ」  昼近くになって起き出して来た死神は、寝癖だらけの銀髪を直しもせずに、時計の掃除に向かうために家を出ようとしていた月霞とリノを、わざわざ呼び止めて、やたら上機嫌に、早く帰るように伝えて来たのだ。    その理由は月霞には、わからなかったが、リノには何やら心当たりがあるようで、いつもより明るい表情をしている。 「大夢さん、何か私たちに用があるのかな?」 「楽しみにしていて良いと思うよ」  リノの笑顔に、今日の作業でゴンドラに乗らなくてはいけない憂鬱が、少しだけ和らいだ気がした。
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