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自然創造課
精も根も尽き果てて、ボロボロになりながら、何とか帰宅した月霞は、ハンナが作ってくれた朝食を断り、自分の部屋へ入るなり、ベッドに体を投げ出して、すぐに眠りに落ちてしまった。
微睡みに身を委ねていた月霞は、けたたましく鳴り響いたドアを叩き付ける音に飛び起きた。
時計を確認する。
午後三時。
昼食を摂ることも忘れて、眠っていたようだ。
月霞が頭を振って、朦朧とした意識を覚醒させようとしていると、ドアの向こうから、トーマの声がした。
「月霞ちゃん!
寝てるの?仕事の時間だよ!」
トーマの言葉に、ぎょっとする。
つい先程、太陽を昇らせたばかりではないか。
しかし、よくよく考えてみると、今から出発して、山登りに一時間、太陽の吊り下げに一時間掛かることを考慮すると、仕事に向かうには、妥当な時刻であるといえる。
ただ、まだ体力を使い果たした月霞の体は、充分に回復していない。
すぐにまた山登りなんて、到底無理な話だった。
だが、行きたくないなんて、年甲斐もない我儘は言えない。
疲れた体に鞭打って、のろのろと月霞は起き上がった。
トーマに手を引かれ、半人前たちに背中を押されながら山道を踏破し、山頂にやって来た月霞は、鎖を手の平にめり込ませながら、朝と同じように、今度は太陽──巨大ランタンをポールから下降させる作業に従事した。
月霞たち太陽チームが声を張り上げている横では、月チームが、月という名の巨大ランタンを夜空へ昇らせるべく、粛々と作業を進めていた。
「早く太陽を回収してよ!
こっちが仕事にならないよ!」
朝もトーマに噛み付いていた半人前の男の子が、再び罵声を浴びせる。
「うるさいなあ。
早く月を昇らせたいなら、手伝えば良いだろ!」
トーマも、歯を食い縛りながらランタンを引き降ろしつつ叫ぶ。
「はあ?
与えられた仕事も出来ないのかよ?
これでお給料が同じなんて全く、納得出来ないよ」
心底呆れた調子で半人前が言うと、「そうだそうだ」と月チームが追随する。
「だったら黙って見てろよ!」
お調子者だと思っていたトーマが、苛立っている。
この空気の悪さは通常なのだろうか。
それとも、間違いなく足を引っ張っている月霞の存在がそうさせているのかと、気が気ではなかった。
長い夕焼けを空に描いて、無事に太陽は沈んだ、もとい太陽という名のランタンが、地上に降りた。
それを見て、月を昇らせるべく、月霞たちをあからさまに邪険に追い払いながら、月チームが早速作業に取り掛かる。
トーマはやはり、面白くなさそうな顔をしたが、「帰ろう、月霞ちゃん」と、座り込んだまま動けない月霞に手を差し伸べた。
「うん……」
顔色を、真っ青から真っ白にした月霞を、トーマなりに心配しているのかもしれない。
背後からは、月を掲揚するべく奮闘する半人前たちの声が響いて来た。
月の仄明かりが、照らす山道を、何とか気力だけで降りきった。
そんな激務を二日繰り返した翌日、「転職させて下さい」と、月霞はネネに泣き付いていた。
情けないのは承知の上で、そう訴えたのだが、ネネは「当然よねえ」と、まるで月霞の心が折れることを予想していたみたいに苦笑を浮かべた。
「天体課の仕事は、黒の世界でトップクラスできつい仕事だからね。
力仕事だし、半人前たちにも、女の子は居なかったでしょう?」
ネネに言われて、そういえばと、思い当たる。
女の子の姿は見掛けなかった気がする。
「半人前たちは、魂と見た目は未成熟ではあるけれど、修行が出来る程の強靭な肉体と体力が備わっているの。
わたしも、天体課の仕事は月霞さんには無理だろうって言ったんだけど、リノが『何事も経験だ』ってきかなくてね。
リノの意見も尊重して、数日したら転職して貰おうと思っていたから、気に病むことはないわ」
窮状を切々と訴えていた月霞の頭に浮かんだ、友達だと思っていたリノの顔が、一瞬だけ鬼に見えた。
「それでね、月霞さん。
次に月霞さんにお手伝いに行って貰いたいのは、自然創造課なの」
「はあ。
どんなことをするところなんですか?」
警戒心をむき出しにする月霞を安心させるように微笑むと、ネネは唇をほっそりした人差し指でなぞると、「そうね」と切り出す。
「確か、シェアハウスで、ライムと暮らしてるわよね?」
「ライムちゃん?
はい、一緒に暮らしてますけど」
「ライムが勤めるのが、自然創造課よ」
それを聞いて、月霞は胸を撫で下ろす。
ライムが働いている場所なら、いくらか安心だ。
まさか連日過酷な山登りをさせられ、腕が千切れそうになるまで酷使されることもないだろう。
ただ、天体課の仕事を経験してしまったことで、未知なる仕事に対する警戒心が生まれてしまうのは、無理からぬことだろう。
「ライムちゃんは、電気を作ってるって言ってました。
私も、そういうことをするんですか?」
「月霞さんには、シズクの手伝いに入って貰いたいの。
同僚が量刑を終えて、白の世界に生まれ変わってしまったことで、ひとりきりで作業をこなすことになってしまって、てんてこ舞いらしいの。
早く人員を補充すると約束したのだけど、この世界は常に人手不足だから、中々新しい人が見つからなくて、困っていたところなのよ」
「そう、ですか。
わかりました」
天体課の仕事が上手く行かなかったことで、すっかり自信を失っていた月霞に、再び使命感のようなものが芽生える。
必要とされることは単純に嬉しい。
こんな自分でも、世の中の役に立てるかもしれないことが。
今度こそ、職務を全うしよう。
月霞は、密かに決意とともに拳を握り込んだ。
月霞と一緒に出勤出来ることが相当嬉しそうなライムに案内されて、新しい職場に辿り着いた。
建物の外観は、月霞のよく慣れ親しんだ学校にしか見えない。
クリーム色の壁に、横に長い、黒の世界に来てから初めて見る三階建てだった。
等間隔に窓が並び、ベランダが設けられている様は、よく見知った学校以外の何物でもない。
昇降口を入り、ずらりと並ぶ下駄箱に靴を入れ、代わりに上履きならぬスリッパに足を通すと、階段を二階まで昇る。
中も、まさしく学校そのものだ。
懐かしくさえ感じる。
と同時に、通えて居ない中学校を思い出して、思わず苦い表情になってしまう。
「あたしの作業場は一階なんだ。
シズクちゃんが使ってる部屋は、二階の一番奥、あっち」
と、ライムは廊下に沿って並ぶ教室のような部屋の一室を指差す。
そして、「はい、これ」と何やら白い布を月霞に手渡す。
受け取り、広げてみると、それは白衣だった。
学校、教室、白衣……。
と来れば、待ち受けているのは……。
ライムと別れ、廊下を進んで、一番奥の部屋のドアをノックし、がらりとスライドさせると、想像した通りの、光景が現れた。
理科実験室だ。
ドアを開けるなり、月霞の目に入って来たのは、大人三人分の幅がありそうな巨大な漏斗に似た装置だった。
太陽と月といい、黒の世界は、スケールが何でも大きい。
月霞の常識は相変わらず通用しない。
室内は、まさに実験室。
棚には液体が陳列され、試験管やフラスコ、ビーカーなと、理科の授業で使うような実験道具一式がばらばらに放置されていた。
ドアを開けたまま、暫し立ち尽くしていると、これまた巨大な、なみなみと液体が入った透明な水槽のような装置の背後から、小さな影が飛び出して来るのが視界に入って来た。
「うわあああん!
新しいひと?
やっと新しいひとがきてくれたの!?」
小さな影は、だふだぶの白衣を着た女の子だった。
泣き声を上げながら、一目散に月霞に走り寄って来る。
そして、その勢いのまま、抱き着いて来た。
「わわっ」
抱き着かれた衝撃で、月霞が後方によろける。
体勢を立て直すと、自分を抱き締めて離さない女の子のつむじを見下ろす。
年齢は、ライムとそう変わらなさそうだ。
しかし、体は一回り近く小さい。
色素の薄い茶色のツインテールがゆらゆら揺れている。
「あのお、大丈夫?」
おずおずと月霞が聞くと、ツインテールの女の子は、涙目で月霞を見上げて来る。
「お姉さん、新しく来たひとだよね?
ここで、働いてくれるんだよね?ね?」
「あ、うん、そうだけど」
月霞が認めると、女の子は安堵と喜びに笑顔を咲かせた。
目がはっきりしていて、かなりの美少女だ。
しかし、残念なことにその顔には疲労が貼り付き、隈が目立っている。
「良かった!
仕事が溜まって溜まって、もう、あたしだけじゃ追い付かなかったの。
来てくれて嬉しい!」
それまでの苦労が洗い流されたかのようにぴょんぴょん飛び跳ねる女の子から、そっと体を離すと、月霞は探るように切り出す。
「あの、あなたが、自然創造課の……」
「そう!
あたし、シズク!
この浄水室の一番えらいひと!」
シズクは、先程まで泣きべそをかいていたとは思えぬ凛々しい顔付きで、どうだと言わんばかりに誇らしげに胸を張る。
「浄水室……」
月霞は室内を見回す。
部屋の奥には、アルコールランプに似た(というより、そのもの?)やはり巨大な器具があり、炎が立ち昇っていた。
炎の上には三脚に載せられた金網があり、金網の上に巨大水槽が載せられ、炎に熱せられて、ぽこぽこと、水槽に溜められた液体が沸騰する音が部屋を支配していた。
水槽からは透明な管が延び、下半分を床に埋めた巨大漏斗へと繋がって居る。
漏斗の口に到達した管には、蛇口が付いており、どうやら蛇口を捻ると、水槽の液体が管を伝い、漏斗に注がれる構造になっているだろうことが窺えた。
浄水室という聞き慣れない単語を月霞が繰り返すと、シズクは水槽をびしっと指差して、「あたし、綺麗な水を作ってるの!」と期待を込めた視線を月霞に送りながら、にこにこと笑って言う。
シズクに促されるまま白衣に袖を通し、理科の先生にでもなったかのようで、落ち着かないでいると、シズクが部屋に鎮座する装置の解説を始めた。
シズクによれば、白の世界に降った雨水は、この実験室に集められ、巨大水槽に入れられ、太陽という名のランタンから分けて貰った炎で煮沸される。
ここでのポイントは、『太陽の炎』を使うということ。
神聖なる太陽の炎でないと、雨水を綺麗な水に変えることが出来ないらしい。
煮沸された水は、飲み水として白の世界に送られる。
これらの作業は、全て人力で行われ、更には、驚くべきことに、シズクたったひとりで行われているということだった。
巨大装置以外の場所には、灯油なんかを入れるポリタンクが数えることもままならない量が、積まれて居る。
これを見るからに非力そうなシズクが水槽まで運んで中身を注ぎ込み、煮沸をしては綺麗に成った水を蛇口から漏斗へと、つまりはその向こうに存在するはずの、白の世界へ向かって供給し続ける。
こんな小さな女の子が、こんな重労働をしているなんて。
それが修行だと言われてしまえばそれまでなのだが、それにしてもシズクに伸し掛かる負担は半端ではない。
白の世界では、綺麗な飲み水を奪い合って争いが起きている。
それはそうだ。
シズクが作れる飲み水には、限りがある。
圧倒的に供給量が足りていないのだ。
少ない水を莫大な人口で分け合うことは出来ない。
だから資金が豊かな国が、綺麗な飲み水を独占してしまい、貧しい国に安全な飲み水が行き渡らない。
月霞は、歯磨きをしながら、蛇口から絶え間なく水を流していたことを思い出して、申し訳なさに、シズクの顔を真っ直ぐに見ることが出来なくなってしまった。
シズクが馬車馬のように作業して作った水を、無駄に流してしまっていたのだ。
「シズクちゃん、安心して。
私、手伝うから!」
突然の決意表明に、今度はシズクがおずおずと月霞を見上げる。
「う、うん、ありがとう。
えっと、お姉さんお名前は?」
「あ、自己紹介がまだだったね、私、言ノ葉月霞。
今日から、よろしくね」
「うん、よろしく、月霞ちゃん!」
シズクは、ようやく年相応の弾けるような笑顔を浮かべた。
早速、月霞は腕まくりをして、ポリタンクに溜められた雨水を水槽に流し込む作業に取り掛かる。
ポリタンクを持って、高い位置にある水槽へのたった三段の階段を昇るのは、一苦労だった。
まず力が足りない。
腕の細さは、シズクとそう変わらなかった。
しかし、自分は手伝いで来たのだし、役に立たなくては意味がない。
年長であるという、妙なプライドもあった。
純粋に、苦労しているシズクを助けたいという気持ちも、もちろんあった。
「シズクちゃん、いくつ?」
汗を拭いながら、月霞が問うと、作業の手を止めぬまま、「十歳」とシズクが答える。
やはりライムと同じだ。
「ライムちゃんって、知ってる?」
「うん、電気作ってる子だよね。知り合いだよ」
共通の話題が見付かり、気まずい沈黙が流れる恐れがなくなったと、月霞は密かに安堵する。
半人前たちと一緒に暮らして暫く経つが、まだ年下という存在に慣れていない部分がある。
「私、ライムちゃんと、シェアハウスで一緒に住んでるの。
シズクちゃんは、何処に住んでるの?」
ほんの軽い気持ちで聞いたつもりだったのだが、シズクから返って来たのは、溜め息混じりの弱々しい声だった。
「此処だよ」
「此処?」
「そう、此処」
シズクは暗い表情で、床を指差す。
「此処って、まさか、この部屋に寝泊まりしてるの?」
シズクは、部屋の片隅にある、更衣室などにあるロッカーを示して見せる。
ポリタンクから手を離してロッカーに近付き、ぱかっと開いてみると、中から強引に詰め込まれた何かが月霞目掛けて倒れて来た。
「うわっ」
慌てて受け止めた物の正体に、「寝袋……?」と月霞は呟いた。
「まさか、この部屋で寝起きしてるの?
朝目が覚めてから夜寝るまで、働いてるの……?」
「ううん。寝るのは夜じゃなくて、疲れたなって思ったら仮眠するの。
ニ、三時間あれば良い方」
「ニ、三時間!?
まさか、それ以外は、ずっと働いてるの?」
「うん。
休みなんてないよ」
何てことのないような口調で言うが、月霞は鈍器で思い切り頭を殴られたような衝撃を覚える。
「それくらい作業しなきゃ、とても間に合わないの」
ちら、とシズクが窓の外へ視線を向ける。
寝袋をロッカーに仕舞うと、月霞は窓を開けてベランダに出る。
学校のグラウンドのような砂利しかない味気ない庭の隅には、コンテナが何段にも積み重なっている。
「あれ、全部煮沸待ちの雨水なの」
「え!?」
実際に見たことはないが、埠頭に積まれたコンテナを彷彿とさせる光景に、月霞は目眩すら覚える。
あまりに途方もない数だった。
あれを全て捌き切るには、一体どれくらいの時間が必要なのだろう。
気が遠くなって、現実逃避するように、月霞は窓をぴしゃりと閉めた。
こんな小さな女の子に背負い切れるものなのだろうか。
改めて、半人前の置かれた過酷な環境に胸が痛んだ。
同情を込めた眼差しをシズクに送ってしまう。
「そんな顔しないで、月霞ちゃん。
あたし、頑張るって決めてるの」
シズクは健気に笑い、小さくガッツポーズを作ってみせる。
「……シズクちゃんは強いね。
どうしてそこまで頑張れるの?」
「うーん、何で……。
あたしね、白の世界に生まれ変わるのが夢なの。
この間まで一緒に働いていた先輩の半人前が、修行を終えて白の世界に生まれ変わったの。
白の世界に行くことは半人前たちの目標や夢でもあるし、黒の世界では見られない素敵な世界があるんだろうなって思ってるんだ」
シズクは、白の世界への憧れを、うっとりした瞳で語る。
白の世界で、辛い出来事を経験して来た月霞にとって、シズクの純粋な願いを素直に応援してやることが出来ない。
「月霞ちゃんは?
月霞ちゃんも白の世界に行くのが夢?」
「あ、え、私は……まだわからないかな」
言葉を濁しながら、月霞は次の話題を探った。
「シズクちゃん、ひとりでこの部屋に寝泊まりして、寂しくない?
お父さんとお母さんは?」
話の矛先を変えるために聞いた疑問なのだが、シズクは月霞の質問を聞いた途端、その表情に翳りを滲ませる。
一瞬だけ、憂いを帯びたその顔が、リノの大人びた雰囲気に似ていると、月霞は思った。
「親とは、もう暫く会ってない。
半人前として生まれて来た子供を愛してくれる親は、いないの」
「えっ、そうなの……?」
何の考えもなしに地雷を踏んでしまったことに深い後悔を抱くと同時に、脳裏に明るい笑い声で満たされているシェアハウスの温かさが思い浮かんだ。
シェアハウスには、まだまだ親の保護が必要な年齢の子供たちが何人も居る。
彼らは無邪気で、仕事にも一生懸命で、年相応の子供らしい一面もある。
考えてみれば、彼らから両親について聞いたことが一度もなかった。
何故、子供ばかりでシェアハウスに住んでいるのかも。
両親に拒絶されたのだ、一緒に住むことを。
愛情を注ぐことを。
シェアハウスに暮らす半人前たちにとって、大夢やハンナという大人の存在が、拒絶せずに接してくれる存在が、どれ程大きいか。
どれ程、救われているか。
半人前たちが抱える孤独や寂しさ、やるせなさを、表には決して出さない彼らの本音を月霞は知らない。
月霞が言葉を詰まらせていると、シズクは、慌てたように笑顔を取り繕い、「平気だよ」と上目遣いに言った。
明るい声を意識的に出そうとしているのがわかって、月霞は益々切なくなる。
そっと近付くと、小さいシズクの体を抱き締めた。
シズクが驚きに身を硬くするのがわかる。
「偉いね、シズクちゃんは。
私には、とても出来ないことだよ。
安全な水を作ってくれて、本当にありがとう」
精一杯の誠意を込めて、孤独な半人前を抱擁する。
体を離すと、シズクは瞳を充血させ、ぐす、と鼻を啜る音を隠そうと必死な様子だった。
月霞は優しく微笑んで見せる。
「辛い時はね、無理せず泣いて良いんだよ。
それくらい、許される。
シズクちゃんは頑張ってるんだから」
自然と溢れた言葉に、月霞自身も驚いていると、それを受けたシズクが、ダムが決壊したように、大粒の涙を零した。
「ありがとう、月霞ちゃん……。
あたし、誰かの役に立ってるのかな……?
あたしを必要だって言ってくれるひと、居るのかな?」
涙混じりの声を、しゃくり上げながら絞り出すシズクに、ライムと初めて話した時の記憶が蘇る。
あの時のライムも、自分が役に立っているかどうかを気にしていた。
半人前たちは、自分が生まれた意味を、理由を、誰かの役に立つことに求めているのかも知れない。
「シズクちゃんは、人の役に立ってる、絶対に。
だって、私はシズクちゃんが作ってくれたお水を、美味しいと思って飲んでるし、綺麗な水で顔を洗ったり、お風呂に入れるのは、シズクちゃんのお陰。
シズクちゃんが居ないと、私たちは生きて行けないんだよ」
涙に濡れたシズクの目が細められる。
泣きながら、笑っているのだ。
シズクは、何度も何度も大きく頷きながら、嬉しそうに笑っていた。
シズクの小さな手を握って、月霞は口にしていた。
「私も、一緒に頑張るよ」
シズクの顔が、輝く光りに満たされた。
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