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郊外。国道沿いのファストフード店。地域の人々に愛されるこの店舗に、今日も学校帰りの二人の女子高生が足を踏み入れようとしていた。
「ああもう、今日のテストだるすぎ! あの教師、マジで趣味悪いわぁ」
「私も今回やばかったかも……特に最後の方、空欄多かったし」
「もう全部忘れちゃおう? あれで点数悪くたって誰も文句言えないでしょ。ああぁ……シェイクよシェイク。徹夜明けのあたしを癒しておくれ」
疲労の溜まる肩を落としながら二人は自動ドアをくぐる。白と黄色を基調とした店内ではアメリカンポップスがBGMとして流れ、厨房から個性的な効果音が忙しなく聞こえてくる。
取り敢えずいつものように注文を済ませよう。そう視線を前に向けたその時、すぐに二人は異変に気付いた。
「……なにあれ」
片方の女子高生が震える声でそう言った。指を差した先に佇むレジの店員。一目見た限りごく普通の好青年だが、その笑顔には何処か違和感がある。無視しようと思えば簡単に無視できる程の僅かな差異だが、それが返って二人の恐怖を駆り立てた。
二人は一瞬顔を見合わせ、恐る恐るレジへと歩を進める。そういえば普段と比べて客の数が少ないような──嫌な予感を唾液と一緒に吞み込み、ようやく例の店員と対峙する。
「いらっしゃいませ」
女子高生達の不安などものともせず、青年は朗らかにそう言った。
「ご注文がお決まりでしたら、お伺い致します」
淡々としていて、何処か機械的な口調。それでも機械にしては流麗で、人間としては俄かにぎこちない言葉遣い。そこまで考えて、ようやく二人は違和感の正体を掴んだ。
この店員、人じゃない。ヒューマノイドだ。
「もしかしてお困りですか? こちら、期間限定の照り焼きチキンバーガーがお勧めとなっていますが如何でしょうか?」
店員の青年は平然とした態度のまま、カウンター上のメニューを指し示す。受け答えの正確さから鑑みるに相当優秀なAIを備えているらしい。しかし無理に細かい所作を人に寄せた結果、表情や仕草から偽物感が滲み出ている。
困惑を悟られないよう、片方の女子高生が笑顔を取り繕った。
「ああ、いや。注文は決まってますので……バニラシェイク二つ」
畏まりました──そう言って柔らかく吊り上がる店員の口端が、微かに震えていた。
ネットニュースで見た情報を二人は連想する。これは──「不気味の谷」という奴だ。ロボットが人間の容姿や振る舞いに極限まで近づけると、何故か不穏な気持ちを引き起こす現象だ。
店員とのやり取りを終えて、各々の商品を受け取った二人はもう一度顔を見合わせ、逃げるように店を後にした。段々と小さくなるその背中を自動ドア越しに見つめながら、ヒューマノイドの青年は一人溜息をつく。
また、怖がられてしまった。
記録データに残る女子高生達の怯え切った表情が、胸の辺りで嫌な電流を瞬かせる。この店に雇用されて早一週間。早速異様な空気が店内全体を満たし始めていた。
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