ノイズ

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 某遊園地、イベントスペース。  元々駐車場だった土地を改造したとされる広大な平地は、不定期で脱出ゲームやライブイベント等の会場として役割を全うしている。その晩は、広大な平地の真ん中を陣取るように、巨大なサーカステントが鎮座していた。  周囲の雰囲気を彩る橙色のランタン。茨やカボチャの装飾。燕尾服を身に纏ったキャスト達。徹底的に作り込まれたハロウィン風の世界観に、会場に足を踏み入れた誰もが感嘆の息を漏らした。  そんな群衆に混ざる形で、二人の女子高生がはやる気持ちを抑えながらテントの中へとゆっくり歩を進めていく。 「……流石はSNSでバズりにバズった神出鬼没のエンターテインメント集団。作り込み凄すぎてテンション上がっちゃう」 「でしょー? やっぱりあたしに付いて来て良かったでしょ? まだ開園まで時間あるけど、テントの中も幾つか仕掛けがあるみたいだからもう入っちゃおうか」  お互いにいつもより気分が高揚しているのを感じながら、エントランスにあたる部屋の中へと足を踏み入れる。妙な形状の洋灯が幾つか吊るされただけの狭い空間は、お化け屋敷を彷彿とさせるほど薄暗い。 「皆さん、我が主の主催するパーティーへようこそ……お越しくださいまし……たたた」  その時だった。部屋の奥から、人のようでいて何処か機械的な声が聞こえてくる。女子高生の二人組を含む全てのゲストがそちらへ目を向ける。安堵感と恐怖心の両方を煽る、絶妙な不協和音の源。それは、木製のキャビネットの上に鎮座した、青年の上半身だった。 「……失礼しました。最近メンテナンスを怠っていたせいで少し喉の調子が悪くてですねぇ。ええ、ですのでご安心を。決して皆さんを取って食おうとは思っていませんから」  興味半分、怯え半分のゲストに向かって、半身の男はにやりと笑ってみせる。人間のようで人間のものとは思えない不気味な表情。背筋に寒気すら覚える不安の要因は、やはり彼の笑顔を象徴する口端の痙攣だろう。 「しかし、用心しておいた方がいいですよ? この先にいらっしゃるのは我らが主。この身体が上だけになってしまったのも、私が彼の機嫌を損ねてしまったから──おっと失礼。うっかり口を滑らせてしまいました」  息を呑む観衆にとどめだと言わんばかりに、今度は白い歯を見せて嘲笑する。 「──まあ、皆さんならきっと、あの御方に心から歓迎されることでしょう。では、健闘を祈ります」  青年を照らす照明が、プツンと途切れた。
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