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1.幸せ狐
狐の耳とふさふさな狐尻尾をつけた女の子。未就学児か小学一年生か、それくらいのちっちゃな背丈。
だけど彼女は不思議な力を持った神様。れっきとした稲荷神なのだった。
紅白の鮮やかな巫女装束を着て、今日も元気いっぱい。それが狐乃音という名前の女の子。
「お兄さん。お洗濯終わりました」
「ありがとう」
今日も大好きなお兄さんのお手伝いを一生懸命頑張っていた。
かつて近所にあったお屋敷……。そのお庭に設えられたお社にささやかな願いが捧げられる中で、狐乃音は精神体として自然に生まれた。
けれど時の流れは残酷なもので、あるときお社がお屋敷ごと壊されてしまった。
行き場を失ってしまった狐乃音はいつしか人の姿にその身を変えて、行く宛もなく街を彷徨った。
やがて極限の疲労と空腹に耐えきれなくなり、路地裏で行き倒れてしまった。そんな絶体絶命なところを、優しいお兄さんに助けてもらったのだった。
けれどそれだけじゃなかった。お兄さんは狐乃音が神様であることをすぐに見抜いて、お家に居候までさせてくれたのだった。
おいしいご飯にぽかぽかと気持ちのいいお風呂。暖かいふかふかお布団に加えて楽しいアニメを見させてもらったりゲームまで楽しませてくれた。狐乃音はとても大切にしてもらっていた。まるで実の娘のように。
だからお兄さんに少しでも恩返しができればと、日々お手伝いに励んだものだった。
「狐乃音ちゃんは……」
「なんでしょうか?」
「寂しかったりする?」
「え?」
狐乃音の保護者たるお兄さんには、一つの心配事があった。
「学校とか、行くのが難しいから」
狐乃音は立場が難しくて戸籍もなくて、同年代の子達と同じように過ごすことはできない。友達を作って勉強したりお外で遊んだりと……。それが辛くはないだろうかとお兄さんは思ったのだ。
「お気遣いありがとうございます。でも、私は大丈夫です。寂しくなんてありませんよ」
だって……。
(お兄さんと……。ずっと一緒にいさせてもらえるのですから)
お兄さんのお仕事はフリーランスのライター稼業。それ故にお家にいる時間がとても長くて、お手伝いをする狐乃音はさながらお兄さんのアシスタントといったところ。
不幸なんかじゃない。それどころか、狐乃音は自分のことを世界一の幸せ者だと思っていた。今の自分はこの上なく贅沢をさせてもらっている。これ以上なにを望むというのか、と。
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