友待つ雪

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 静岡県、特に平野部では雪が滅多に降らない。  私は生まれてから一度も雪に触れたことがなかった。  それは親友の日和も同じだ。  彼女とは家が近かったため、毎日のように遊んでいた。   「手から雪が出せたらいいね」   女王が雪でお城を作るアニメ映画を観た日には二人で公園の砂をまき散らし、砂まみれになった。  そのまま家に帰り、激怒したお母さんに、「砂じゃなくて雪だ」と泣きながら言い返した。  私たちが知っている雪は、茶色くてじゃりじゃりしていて溶けない。  しかし本物は、白くてフワフワしていて溶けるらしい。  私と日和はいつも雪に想いを馳せては、小さい手で指切りをして誓い合った。 「いつか二人で雪を見よう」  宇宙旅行をしに行くような、ロマンチックで幻想的な約束だった。  約束を交わした日以来、私たちは毎年、冬になると空を見上げた。  その日を待ち続け、来る日も来る日も空を見上げ続けた。  しかし、降るのは雨ばかりだった。  気が付いたら大人になり、日和は静岡の実家の旅館を継いで、私は上京し念願の化粧品メーカーに就職した。  ――日和との約束はまだ果たせていない。
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