友待つ雪

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   外が真っ暗になっていることに気が付き、慌てて時計を確認する。  気が付けば、夜十時。  夜ご飯も食べずにプレゼンの資料を作り続けていた。  首を回すと、ゴリゴリと嫌な音が鳴って突き刺すような痛みを感じる。  食べたいものが思い浮かばず、鞄の中に入っていたチョコを口に入れた。  ほんのりとした甘みが口の中に広がり、心が少しずつ溶かされていく。  眠い瞳でぼんやりと企画資料を眺め、最初に書かれた文字を心の中で読み上げる。 『新しい自分に生まれ変わるようなコスメ』  入社時からずっと大事にしてきたコンセプト。  自分にとってメイクは、「自分を新しい姿に変身させて、誰よりも強く美しくする」もの。  それは間違っていないと思う。  しかし、どこか冷たく寂しい感じがする。  私が思い描いていたコスメは、もっと温かくて輝いていたはずだ。  今の私には言語化できず、違和感を表現できずにいた。  時間が許すのなら、一日中考えていたい。  今の自分のこと、そしてあの頃の自分のこと。  向き合えずに放置した感情が、氷のように固まったままだった。 「……少しだけ」  連日の睡眠不足に耐えられず、スイッチを切られたロボットのように、パソコンに頭を突っ込んだ。
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