生活安全課

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生活安全課

 新宿東署の生活安全課は、要は町の何でも屋さんだ。  だが、課長と俺は元々警視庁捜査一課の性犯捜査係にいたから、ここは正に俺たち向きの現場と言える。  毎日毎日、飽きもせずに未成年や飲み屋のねーちゃん、フーゾク嬢やらホストやらが、面倒のタネと一緒にやってくる。 「静馬さぁん、また客に逃げられたぁ」  さっき補導した少女の保護者と電話で押し問答をしている横で、胸もパンツも普通に見えそうな安物のドレスを着た中年女が、課長のネクタイを掴んでクネクネと何かを訴えていた。  あの人の美貌は罪だ。  美しいだけにあっという間にこの町の人間に顔が知られ、シマを持つヤクザにもしょっちゅう迫られている。だから、マル暴の奴らは課長を『オカマ野郎』と呼んで憚らない。 「リナ、枕営業はダメだって、店長に怒られたでしょ。クビになったら次がないよ」 「だって、子供の修学旅行費を払えって学校に言われて、つい……」 「そういうの、手続きすれば補助してもらえるよ」 「でも……役所に行ったって、書き方教えてくれないよ。知ってる? メッチャ面倒臭くてサァ、字なんかスッゲェ細かくて、何書きゃいいんだかわかんねぇの。だってアタシ、中学もまともに行ってないもん……参加のための書類だって全然書き方わかんなくて……子供にバカ扱いされちゃった……」 「だったら持っておいで。ちゃんと書類を学校と役所からもらって、ハンコと一緒に持ってくれば、書き方教えてあげるから。なぁ、莉子」  すると、少年課の係長で二児のママである佐々木莉子先輩が、いつもながらの爽快スマイルで駆け寄った。 「リナさん、うちの上の子も6年生で修学旅行用の書類書かなきゃなの。一緒に書かない? 」  すると、リナと呼ばれた女は、目を潤ませて頷いた。 「それでも親かっ」  俺は通話相手の言い分にげんなりして、電話を叩きつけた。 「課長、例の立ちんぼ少女、親は来られないそうです」 「来られない? 」 「母親に連絡ついたんすけど、仕事で出られないとか。じゃ、父親にって話になったら、あいつはDV野郎だから、知らせるなの一点張りで」  課長の表情が曇る。この人は、未成年が大人の犠牲になることが何より許せないのだ。 「母親、仕事は」 「後ろがすごくやかましかったんで、飲み屋ですかね」 「中学生だったな、あの子」 「はい。水戸市内の公立中学の二年生です、高校生にしか見えませんけど」 「いや、どう見ても中坊だろ……まぁいい、俺が児相と段取りつける」  え、と見回して、課内の誰もがあたふたと走り回っているのが分かった。みんな、手一杯なのだ、随時、オールウェイズ。 「莉子、いい加減に上がれよ、下の子明日遠足だろ」  まだ書類と格闘している莉子先輩に帰宅を促し、課長はジャケットを手にした。 「俺行きますよ」 「今日補導した立ちんぼ達の家連絡と引き渡し、あと何人」 「……8人」 「頼むぞ」  例の、戦闘モードの時のミント系フェロモンを漂わせて、課長は颯爽と駆けていった。  だから、俺はあの人から離れたくないんだ。    
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