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姉貴
俺には、年の離れた姉貴がいた。
高校三年生の三学期、バイトで遅くなり、駅から自宅へ夜道を急いでいるところ、連続婦女暴行犯に捕まり、乱暴された。
俺はまだ10歳だった。
もうベッドに入っていて、眠りこけていた。
母親の悲鳴で飛び起き、玄関へと駆けていくと……身体中が泥と血とで汚れ、服が原型を留めぬほどに切り刻まれ、裸のような姿で立っている姉貴がいた。
母は絶叫し、父は絶句した。
俺は咄嗟に部屋の毛布を引きずり出して、姉貴を包もうとするが、大人の姉貴には届かない。もどかしい思いをしていると、近所の人の通報を受けて派出所の警官が駆けつけてきた。
背が高いが線が細く、顔は女みたいに白い警官。姉貴の姿を見て一瞬言葉を失い、咄嗟に俺が掛け損なっていた毛布を拾って姉貴を包んだ。
「告訴のお気持ちがあるならば、まずは病院に行きましょう。体内に犯人の体液なり証拠が残っている可能性があります……そのおつもりならば、すぐに女性警官を手配します、病院にも女性の医師に診察を頼んでみます」
姉貴は何も言わない。泣きもせず、立ち尽くしているだけだった。
一人にしておけないと、俺も病院に連れて行かれた。
婦人科だ。
今なら、姉貴がどんな診療を受けたかが分かる。
ただでさえ怖い目にあったのに、また、慣れぬ診察台に乗せられ、体を触られるのだ、暴行の被害者にとって、これほどの苦痛と屈辱はないだろう。
あの時も、姉貴は診察台から飛び降りようとして押さえつけられ、絶叫が廊下にまで聞こえてきた。
この時、対応した刑事達のやり方は何とも横暴で不躾だった。セカンド・レイプという言葉があるが、正に、それだ。
帰宅し、やっとの思いでシャワーを浴びて着替えた姉貴を、刑事達は荷物でも運ぶように、両親の制止を振り切るようにして連れていった。
四人のゴリラのような大男が、狭い部屋で姉貴に状況を問い質す。それも、面談用の部屋が空いていなくて、たまたま空いていた取調室を使って。
どんな服を着ていたか、どう捕まったのか、どこから触られて、どう弄られたのか……君は誘ったのか、服は扇情的ではなかったか……ブラジャーを引き千切られて胸を舐められたと証言すると、
「確かにあんた、いいおっぱいしてるしな」
と言われたと言う。
「ま、短いスカートでケツ振って夜道歩いてりゃ、ヤッてくれって言ってるようなものだもんな。警戒は全然してなかったの? 」
弁護士が後に、両親に怒りを孕んだ口調でそう報告をしていたのを聞いた。
姉貴を壊しやがって……一生懸命バイトして、私大の学費を出してくれる両親にプレゼントをしようとしていたのに……明るくて、優しくて、ちょっとおっちょこちょいで……俺のことをとても可愛がってくれた姉貴。
警察での聴取の後、姉貴は両親の車が電車の踏切で止まった瞬間、後部席から飛び出して線路に飛び込もうとした。
「待って! 」
正に潜り抜けようとしたところを、後ろの車から駆けつけ、タックルするようにして姉貴の体を抱えて横飛びに転がった人物……初動で姉貴のために女性警官や女性医師を手配してくれた派出所の巡査である市川静馬、つまり、課長だった。
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