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 しかも、それは嘲笑や冷笑の(たぐい)のマイナスなものではなく、文字通り『微笑ましい』、プラスの微笑だった。 その証拠に、有本に見つめられている顔の右半分がじんわりと温かくなる。  有本の、ほとんど吐息の様な声が俺の右頬をかすめる。 「どうにか、どうにでもしてくれてもいいのに」 「えっ」  さすがに看過、無視を出来ない有本の発言に、俺は右を向いた。  まんまと、向いてしまった。  すぐ間近に、――そう、キス出来てしまいそうな程近くに、有本の顔があった。 首筋が全く動かなくなってしまったのを口実(いいこと)に、俺は有本を思う存分に見つめた。  間近も間近、文字通りの至近距離で見つめれば欠点の、(アラ)の一つや二つは見つけ出せそうなものだった。 しかし、有本に限っては一つも見つけ出せなかった。  粗どころか、成人男性には有り得ないほどの肌のきめ細やかさまで『発見』してしまった。  一瞬、化粧をしているのかと思ってしまったくらいだ。    よくよく見れば、有本は全くの素肌で素顔だった。 今時は、男でもそうめずらしいことではないので、いっそその方が納得がいった。  きれいに生え揃ったまつ毛をまばたきで揺らしつつ、 「冗談だよ。冗談。ごめん」 と、有本が謝ってきた。 「・・・・・・」
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