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 それって、つまり、それは・・・・・・  最後まで言葉にすることが出来なかった。 ――いや、わざわざ敢えてはしたくなかった。  俺のささやかな抵抗など知るわけもない有本は、無邪気なまでに元カレとの『出会い(馴れ初め)』を披露し続けてきた。 「遠慮したら、三井にみたいに『全然、気持ち悪くなんかない』って言ってくれた。『愛々傘』も、『まるで、月が綺麗ですね。みたいだ』って――」 「何だそりゃ」  ただただ黙っているのにも限界が訪れた俺は、思わず素で突っ込んでしまった。 会ったこともない、話の上での『有本の元カレ』に対して気を遣えという方が無理だ。  俺の情け容赦のないツッコミに、有本は気を悪くした様でもなかった。  それどころか、薄っすらと笑い出しさえした!  驚き、信じられないでいる俺へと有本は同意してくる。 「だろ⁉三井もそう思う?俺も思った!」  明らかに笑顔になった有本が、さらにベラベラと続けてきた。 「『月が綺麗ですね』は、夏目漱石が『I love you』を訳した際の言葉だって」 「へ?アイラブユー?」 「うん。全然、被ってないよね」
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