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 『可笑しくて堪らない』といった様子で、引き続き有本はクスクスと笑いを続ける。  一応、――いや、明らかに有本本人へと言われた言葉だろうに、だ。  肯定も否定もしないで、だんまりを決め込んでいる俺に、有本は苛立ちでもしたのだろうか? 笑うのを止めて、一転、真逆も真逆な真顔で告げてきた。 「――死んでもいいよ」 「えっっ⁉」  驚いて、とっさに見た有本の顔は無表情だった。 表情がまるで無いのにもかかわらず、とてもきれいだと俺は思った。  そう、思ってしまった・・・・・・  しかし、俺が呆然としている見る見る間に、再び有本の顔へと笑いが浮かんできた。 「二葉亭四迷は、『I love you』を『私、死んでもいいわ』と訳したらしい」 「それはその、究極的だな・・・・・・」 「ソレってほとんど心中じゃん‼」と言い足してやりたいのを、一生懸命堪えた。  言い終えた後で、 「一体誰だ?ソイツ」 と改めて思い、声にも出した。  有本が難なく(しれっと)、答えてきた。 「明治時代の文学者。作品、読んだことないけど」 「――読んだことないのかよ」  これは声に出した途端、力が抜けた。 そして、もの凄く可笑しくなってきてしまった。
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