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 SEとして入社してきた有本は、大学院まで進んだ工学部の出身だと聞いていたので納得がいった。 それで『元カレ』の話は終わるのかと思っていたが、違った。 「だから周囲には全くバレずに、今の今まで付き合うことが出来たんだ」 「え・・・・・・」  有本が、『今の今まで』の部分を特に強調して言った様に聞こえたのは、単なる俺の気のせいだろうか?  気になっている俺を左に見てくる有本の顔は笑っていたが、ついさっきまでのとはまるで表情が違っていた。  苦くて、寂しそうな笑顔だった。  俺が何かを言い出すのを待たずに、有本はさっさと前を向いてしまった。 うつむき加減に歩き出しながら、声だけで告げてきた。 「やっぱり今日みたいに傘に入れて貰って、ビニール傘を買いに購買がある校舎まで向かおうとしたんだ。そうしたら――」 「そうしたら、どうしたんだ?」  「購買に立ち寄って、ビニール傘を買いました」で終わる話ではないのは、語る有本の口振りで、声で想像がつく。 俺が気になるのは、――気になって仕方がないのは、有本の元カレが一体、何と言ってきたかだ。  そんなことを知って、俺はどうしようというのか。
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