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一瞬、疑問に思ったが、すぐに自分自身で答えが出せた。
多分、有本が言った様に「どうにか」したかったのだろう。
――もちろん、有本のことを。
俺の考えなど、心の中など知らない有本は、知らないが故に素直に平らかに続けてくる。
そう、まるっきり他人事の様に――。
左を、俺の方を向いてきた有本の顔が、頬の高い位置が赤かったのは、俺の気のせい目のせいだったのだろうか。
その鮮やかな色に、つい、ぼんやりと見惚れていた俺へと有本は言う。
「『傘なんか買わなくていい。僕が、君の傘になってあげるよ』って言ってくれたんだ」
「・・・・・・」
こうも堂々と、照れも臆面もなくのろけ話をされてしまうと、からかったり茶化す気も起こらない。
――ただただ返す言葉が思い浮かばなくて、正直、困った。
しかし、有本はそもそも俺の返事など全く期待していないように思われた。
有本は、のろけたためにか顔を赤らめつつも、その他の点では何ら変わったところは見られなかった。
前を向き、一定の歩幅を保ったままで淡々と、着々とコンビニへと向かって歩いて行く。
そう――、まるで何事もなかった、起こらなかったかの様に。
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