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 有本へとかけるのに適当な、相応しい言葉が思いつかずに、ただ呆然としていただけだ。  「――泣いてるのか?」だなんて、愚問もいいところだった。 そんなことは、有本を見た途端に分かる。  有本は俺の間が抜けた顔を見て、「困らせてしまった」とでも思ったのだろうか。 ただただ黙っているだけの俺に向かって、目元を拭いながら言う。 「『初めて出逢った時の様に、急な雨が降って困ったら何時でも呼んでくれ』って言われてた」 「それは・・・・・・」  やっとのことで、一言だけを言うことが出来た。  その後に続けて、「単なる言葉の上だけだ!」と有本を諭してやりたい衝動を必死で抑え込んだ結果の、『一言』だった。  もちろん、有本はそんな俺の努力を知らない。 ――知らないからこそ、俺の二の句を全く待たずに話すことが出来たのだろう。  きっぱりと、ためらわずに言い切った。 「だから、今日も呼んだんだ」  「あぁ、そういうことだったのか」と、俺はその点では納得がいった。 しかし、納得がいったらいったで、次の疑問点がムックリと頭をもたげてくる。
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