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 さすがに露骨過ぎて、ズバッと指摘するのをためらっている俺へと有本は告げてきた。 「結婚が決まったんだって。恩師である教授の娘さんと」 「・・・・・・」  俺に忖度しているかの様な、見事なまでの先回りっぷりだった。 さらには、 「あ、来年にはお子さんも産まれるらしいよ」 と、聞きたくも知りたくもない、――つまり、俺にとってはどうでもいい追加情報まで言い足してきた。  それでもなお、俺の耳には「『二股』など、かけられていなかった!」と主張している有本の声無き声が、確かに聞こえていた。  「やっぱり、ソレってどこからどう見ても二股だ!」と断言し、糾弾する代わりに、俺は有本へと訊ねる。 「今まで、ほんの少しでも『あやしい』って思ったことはなかったのかよ?」 「あやしい・・・・・・」  有本は、『あやしい』という言葉を今初めて聞いたかの様に、繰り返(リピート)した。 ――ややあって、思う存分に咀嚼(そしゃく)し、納得がいったのか口を開いた。 「最初っから、十二分あやしかったよ」 「えっ⁉」  思わず驚きを隠せずに叫んだ俺を、有本は嘲笑わなかった。 端正な顔に浮かぶ微かな苦笑は、おそらく自らへと向けられたものだ。  俺に向かっては、何も発信されていない――。
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