109人が本棚に入れています
本棚に追加
その証拠に、有本は俺から顔を目を背けた。
うつむき加減で、言う。
「優し過ぎて、最初っからあやしいところしかなかった」
「・・・・・・」
返す言葉がとっさに浮かんでこない俺へと、目線だけを寄越してくる。
ひどく仄暗い、陰惨な光を浮かべた目だった。
苦笑で小さく鼻を鳴らした後、有本が吐き捨てる。
「『月が綺麗ですね』なんて言ってくる男に、ロクな奴はいないよ」
バッサリ、一刀両断だった。
「だったら、な――」
そこまで言って、言いかけて俺は止めた。
「何でそんなヤツに応えて、付き合ってたんだ!」と続けて問い糺したいのを、ひたすら懸命に堪えた。
有本が返して、言ってくるだろう『答え』は、たったの一つきりだけだ。
俺にはそれが、何であるのかが分かる――。
それをあえて有本の口からは直接聞きたくなくて、俺はジタバタと往生際も悪くもがく。
言いかけた質問をギリギリ土壇場で引っ込めるのが、そのいい証拠だ。
有本はいくら周囲とは雰囲気がまるで違ったイケメンであっても、さすがに超能力者ではないはずだ。
――しかも、透視能力を持つ型の。
最初のコメントを投稿しよう!