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だから、俺の気持ちまでは、心までもは分からないはずだった。
分からないはずだと、思い込みたかった。
有本が俺を見た。
鮮やかな光を灯した透視能力者の目をして、言った。
「好きになってしまったんだ。そんなロクでもない奴のことを」
「・・・・・・」
『絶望』を体現したのは、体で思い知ったのは初めてだった。
体が冷えて、急激に体温が下がっていくのが分かった。
文字通りに「血の気が下がっていった」結果だ。
俺を見る有本の目はほとんど蕩けそうになっていた。
それが、瞬時に固まった。
「でも、それも今日で終わり。おしまい」
「有本・・・・・・」
『終わり』と『お終い』を続けて重ねて言うあたりが、有本の未練と決意の両方を表している様に俺には思えた。
有本の名字を呼んだ後はただただ黙っている俺へと、有本が笑いかけてくる。
苦いものは全く含まれていない、純度100%の『笑顔』だ。
その顔のままで、有本は言う。
「三井、ありがとう」
「えっ」
まさか又、お礼を言われるとは思ってもみなかった。
驚き思わず一音だけを発した俺に、有本は二の句を継げさせてはくれなかった。
すかさず、続けてくる。
「傘に入れてくれて。――あと、俺の話を聞いてくれて」
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