109人が本棚に入れています
本棚に追加
一転して、はっきりとした口調できっぱりと言い切る。
「・・・・・・」
一体、どういうことなのか・・・・・・
やっぱり俺は、思ったことが顔にすっかりと出ていた様だ。
ほとんど消え入りそうな淡い顔の有本が、言ってきた。
「三井、今まで残業だったんだろ」
「あ、あぁ」
不意に、文字通り不意打ちで変わった話題に、俺は相づちを打つのが精一杯だった。
「お疲れ様。俺は雨足が弱まったら、近くのコンビニでビニール傘でも買って帰るから」
「・・・・・・」
有本のこの言葉には、俺はうなずかなかった。
「帰るから」の後には、「だからさ、おまえもさっさと帰ってくれよ」と続いているように思われてならなかった。
そして、それより何よりも、本当に有本が「雨足が弱まったら、近くのコンビニでビニール傘でも買って帰る」とは、絶対に信じられなかったからだ。
こういう分かりやすい、分かりやす過ぎる嘘を吐く人間は、あくまでも確信犯か、全くの天然かのどちらかだ。
俺は、そう思ってる。
有本は、後者だと睨んだ。
いちいち言う表情はもちろんのこと、選んだ言葉も又、フワフワふんわりとしたものばかりだ。
文字通り『雲をつかむ』様な、手応えの掴みどころの無さだった。
最初のコメントを投稿しよう!