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 一転して、はっきりとした口調できっぱりと言い切る。 「・・・・・・」  一体、どういうことなのか・・・・・・  やっぱり俺は、思ったことが顔にすっかりと出ていた様だ。 ほとんど消え入りそうな淡い顔の有本が、言ってきた。 「三井、今まで残業だったんだろ」 「あ、あぁ」  不意に、文字通り不意打ちで変わった話題に、俺は相づちを打つのが精一杯だった。 「お疲れ様。俺は雨足が弱まったら、近くのコンビニでビニール傘でも買って帰るから」 「・・・・・・」  有本のこの言葉には、俺はうなずかなかった。 「帰るから」の後には、「だからさ、おまえもさっさと帰ってくれよ」と続いているように思われてならなかった。  そして、それより何よりも、本当に有本が「雨足が弱まったら、近くのコンビニでビニール傘でも買って帰る」とは、絶対に信じられなかったからだ。  こういう分かりやすい、分かりやす過ぎる嘘を吐く人間は、あくまでも確信犯か、全くの天然かのどちらかだ。  俺は、そう思ってる。  有本は、後者だと睨んだ。 いちいち言う表情はもちろんのこと、選んだ言葉も又、フワフワふんわりとしたものばかりだ。 文字通り『雲をつかむ』様な、手応えの掴みどころの無さだった。
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