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 分からないままに、絶句した有本へと言うべき言葉も見つからないでいる俺へと、その有本本人が自ら発してくれた。 「本当に、いいの――?」  その声の、震えるか細さに甘さに、俺は、例え嘘でも本当だと答えていたと思う。  でも、嘘なんかじゃなかった。 正真正銘、本心からの『本当』だった。  だから、有本へと大きくうなずいてみせた。 「あぁ。そうじゃなかったら、言わねぇよ」  わざと大げさに笑いかけたのがよかったのか、有本は俺の言葉を、つまり俺を信じてくれたらしい。 俺が傾けている傘の中へと、頭をもぐり込ませてきた。  さらに、何と声をかけようかと思い悩んでいる俺へと、有本が言ってくる。 「お邪魔します」 ――しかも、ぺこりと頭を下げてくる動作(アクション)のおまけ付きだった。  何だよ・・・・・・そんなことまで、要求しない!  俺は、叫ぶ代わりにどうにか返事をする。 「あ、お、おぅ・・・・・・」  他人が聞いたら意味不明だろう言葉以下の音も、有本は傍受(キャッチ)に成功をしたようだった。 「ありがとう」 と、実に爽やかに、俺へと礼を言ってきた。
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