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俺は有本の顔に、たっぷりと三秒間は見惚れていたと思う。
「三井?」
透き通る様だったその顔が見る見るうちに、不審げな表情で曇っていった。
大いに慌てて、体を半回転させる。
「行こうか」
ゆっくりと歩き始めた俺の右隣に、有本は並んだ。
もの凄い高身長でも筋肉質でもない、どちらと言えば痩せ気味の有本だったが、そこはやはり成人男性だ。
ただでさえ小型な折り畳み傘の下にすっかりと収まるのは無理だった。
――骨細な右の肩がはみ出てしまっている。
頭が雨に濡れないだけ、マシな程度だった。
「もっと寄れよ。濡れるから」と引き寄せる方がよっぽど不自然だと思ったので、そのままにしておいた。
会社から一番近いコンビニまで、どんなにノンビリと歩いても五分とかからないだろう。
その短い間に、有本へと訊ねておきたいことがあった。
前を向いたままで、早速、俺は切り出す。
「傘を失くしたのって、職場でか?」
「え」
有本の絶句の方が、俺にとっては驚きだった。
「今日、今さっき失くしたばかりだ」と言うくらいだったら、=「会社で失くした」のが妥当だと考えた。
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