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サラは彼女を消し去った。
「ここであってる、よな?」
僕は居酒屋の名前と、スマホに表示したGoogleマップを何度も見比べながら呟いた。
居酒屋“かのき”。古めかしい木製の看板に、筆文字が躍っている。入口には太ったたぬきの信楽焼が、ひょうきんな笑顔でこちらを見上げていた。
今年で大学四年生のなる僕だが、実のところ同窓会なるものに参加したのは初めてだったりする。いきなり中に踏み込んでいいものだろうか。幹事の竹田さんの名前を出せばいいのだろうか。どちらかというとオタクで休日ヒッキーなタイプなので、正直ものすごく緊張している。
みんな、僕のことなんて覚えていなかったらどうしよう。
あるいは、なんでお前が来るの?みたいな雰囲気だったら。
「おーい」
迷っていると、玄関から声がした。紫の暖簾を派手に潜って姿を現したのは、長身で金髪、ムキムキの大男である。
誰だろう、と僕は思った。ひょっとして元クラスメートの誰か、なのだろうか。
いかんせん今回の同窓会は“旧六年三組”のメンバーである。つまり、最後に会った時まだ小学生だった者たちばかり。派手に様変わりしていたら、分かる自信はまったくなかった。
「お前、鍵本小の六年三組のやつけ?」
「え、あ、まあ」
「ほう、やっぱしの!入口でうろうろオドオドしてるから、そうなのかと思っちょったん!」
どこの方言なのかもよくわからない、謎の口調で話す男。だが、その喋り方には聞き覚えがあった。
確か、六年生でうちの学校に転校してきた――。
「ひょっとして……松井?」
「おお、当たりじゃ!そっちはもしかして、梅澤け?」
「そ、そうだよ!うわあ、久しぶり!でかくなったじゃん!」
やっぱりというべきか、彼は松井武正だったようだ。あの野球少年が、まさかこんなマッチョなムキムキ男になっているとは思いもよらなかったが。
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