サラは彼女を消し去った。

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 ***  開始時間まであと五分と迫っているのに、会場に人気はまばらだった。  仕方ないことではある。なんせよりにもよって今日、電車が何路線も動かなくなってしまったのだから。架線トラブルというやつらしい。山手線と京浜東北線が両方止まってしまって、ついでに人が殺到した埼京線と湘南新宿ラインは大混雑で遅延。そりゃあ、遅刻してしまう人が多いのも無理はない。  ましてやこの居酒屋“かのき”は、山手線沿線が最寄り駅となっている。辿りつけなくなっている人も少なくないのだろう。僕だって本来なら一時間以上前に到着予定だったところ、どうにか遠回りに遠回りを重ねてようやくギリギリに辿り着いた形である。 「適当なとこ座っとけ。今日はこの会場、俺らで貸し切りじゃけ」  ほいほい、と彼に言われるがまま畳の部屋に案内される。こんな大広間に案内されることなんて、親戚の集まりくらいでしか経験したことがない。  緊張するが、見た目に反して松井が昔のままの明るさで付き合ってくれるのが救いだった。 「まだ幹事も含め、十人以上来られてないき。よりにもよって今日架線が切れんでもええっちゅうに」 「だよね。こればっかりは不運としか言いようがない。竹田さんが来てくれないと始められないし」 「じゃろ」  ちなみに幹事を務めてくれた竹田波香(たけだなみか)は、六年生の頃学級委員を務めていた少女だった。学級委員とはいえ、ガチガチの硬派というわけではない。むしろ天真爛漫で明るく元気、みんなを笑顔にしてくれるタイプの少女だった。しかも、結構可愛かったと記憶している。内のクラスの男子で、彼女が好きだった人間が果たして何人いることだろうか。  その竹田さんも、今回は遅刻していた。  松井のところに“池袋で足止め喰らってる!ホームに入れないいいいい!”と大絶叫するLINEが来ていたらしい。友人として、竹田さんとはメールやLINEくらいのやり取りが続いているという。 「先に飲み始めちゃ駄目かー」 「ハラヘッター」 「ビールビールビール……」 「やかましいわお前ら!」  そうこうしているうちに時間は過ぎたが、やっぱり人数が増える気配なし。大広間の隅っこの方で、男女数人がぐったりしていた。お腹がすいて倒れそうなやつと、お酒が欲しくて飢えているやつである。僕が予想していた以上に、今回の同窓会という名の飲み会を楽しみにしていた人達が多かったということだろう。  ちなみにクラスの人数は三十六人。  そのうち一人は海外に引っ越してしまい、四人も北海道などの遠方に引っ越してしまった関係で参加できないと連絡があったという。また、既に仕事をしている者や、就職活動などの都合で来られない者もいたそうだ。最終的に、参加者は二十八人だと聞いている。 「みんな暇じゃき、空腹に耐えかねて騒ぎよる」  仕方ねえ、と松井が言った。 「俺が、ちょいと面白い話をしたる。面白い話っちゅうか、ミステリーっちゅうか」
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